アゴラで山田肇先生が再三紹介されてきたが、行政手続きを電子申請に原則統一するデジタルファースト法案が10日、衆院で賛成多数により可決された。あとは参院の審議を見守るだけだが、政府がめざす今国会成立を期待したい。
そして、おそらく、この法案通過を視野に入れた報道だったのだろう。この日の日経朝刊は、自民党政調会で「デジタル政策」に力を入れているとの記事を掲載した。永田町に近いIT界隈でちょっとした話題になっていたようだ。
自民、人材もデジタル重視 政調・議連で政策強化(日本経済新聞)
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政権交代と世代交代の遅れでデジタルも10年停滞
記事では、政調会でデジタル政策を主導したり、専門性に評判を得たりしている議員の名前も挙げられている。前述のデジタルファースト法案づくりを主導した木原誠二氏、アゴラでもおなじみの小林史明氏などのラインナップだ。
ただ、この記事の終盤で指摘されるように、永田町ではデジタル政策を主導してきたのは議連で、自民党政権の政策づくりの本流と言える政調会でのデジタルシフトが本格化したのは、昨年10月以降。デジタルエコノミーに日本が乗り遅れ、アメリカ、中国の後塵を拝していることへの問題提起がなされてから、一体どれだけ経っただろうか。
「これでも10年遅れ」だとSNSで発言したところ、自民党内の10年前からのデジタル政策議論の経緯を知る関係者から、2000年代当時の若手・中堅議員たちが散々警鐘を鳴らして訴えてきたのに、取り合ってもらえなかった嘆きをこっそり明かしてくれた。ちなみに、その時の議員の一人が、いまIT政策担当相として初入閣した平井卓也氏だ。
十数年前といえば、自民党が政権から転落して民主党に取って代わられる少し前。「IT革命」を「イット革命」と読んだ某元首相のような古狸たちが閣僚や党三役に多かった時代だった。その後の政権交代でIT音痴の古株議員がいなくなり、世代交代が進んで、いまや選挙のデジタルマーケティングで自民党が「一強」になったことを考えると、良くも悪くも定期的に新陳代謝は必要なのだと再認識した。
フランスに学ぶ“デジタル省庁再編”
話を戻すと、自民党がデジタルシフトを本格化させたところで、それを法律や政策で社会実装していく上で霞が関の体制が前世紀のフレームワークと変わっていないのが気がかりだ。
前回の大型省庁再編は橋本行革の90年代後半(スタートは2001年1月)と、もう20年経過している。そして近年の厚労省の相次ぐ不祥事で、社会保障コスト増を睨んだ新たな再編もささやかれているが、コスト制御のやりくりだけのような「守り」の再編では面白くない。どうせやるなら、国富を稼ぐ国家戦略構築のための「攻め」の思想も、次なる再編に反映した方がいいのではないか。
日本と同じく経済の成熟化・長期停滞に喘ぐフランスでは、オランド政権下の2014年、経済・財政政策を担当する経済・財務省が財務・公会計省と経済・生産再建・デジタル省に分割された。これだけだと日本と同じく、財政を預かる財務省と、経済政策を手がける経産省に役割分担した形に似ているが、日本が参考にするべきは時流に応じて必要な枠組みを変える発想だ。
つまり、国家戦略として国丸ごと「デジタルファースト」の本気度を見せるのであれば、各省庁にあるデジタル関係の部署を全て統合するくらいの大胆な改造と、官邸主導による強い権限を持たせるくらいでなければなるまい。
そして、経団連が昨年5月、デジタル経済に一家言がある中西会長のカラーを反映するように、情報経済社会省(デジタル省)の設置をぶち上げ、「各府省に散在している情報通信・デジタルエコノミー等の関連政策を一元的に所管し、標準化や国際展開等も含めた施策や予算措置を迅速に推し進める」(経団連サイト)ことを提言。具体的な再編イメージも次のように示している。
もちろん、この構想を噴飯もの、失笑ものだと貶す人も多かろう。既存の枠組を壊し、いじることを嫌う官僚たちのアレルギーは相当なはずだ。また、民間の有識者の中にも、例えば「小さな政府」志向の人たちからは「“デジタル省”を作ったところで、経済のグローバル化、情報化が加速する中で、国家社会主義的なターゲッティング政策ができるわけないだろう」と冷笑されるかもしれない。
筆者とて、先進国で唯一、ライドシェア一つできず、シェアリングエコノミーの潮流に乗り遅れるこの国の岩盤規制ぶりからして、官の肥大化には全く反対だ。経団連の構想がベストかも今の時点では分からない。
“小泉デジタル相”のPR効果も使って、官民のマインドセットを変える
ただし、政策資源を再配置し、21世紀の重要官庁の閣僚は「財務、外務、デジタル、経産」と言うくらいの打ち出しをするだけでも、官民のマインドセットをアナログからデジタルに変える効果は小さくないのではないか。
マスコミも昨年の経団連の提言の報じ方は淡々としていたように思う。自民党政調会のデジタルシフトを注目しているのが、経済紙の日経だけというのが、いまの日本国民のデジタルシフトへの“一般通念”がこの程度ということだ。
ちなみに、筆者がフランスのデジタル省に着目したのは、デジタル相を歴任したマクロン大統領の生い立ちを研究したのがきっかけだ。そのマクロン研究をはじめたのは小泉進次郎氏の将来を占う上でベンチマークしたからだった。国民へのPR効果と、首相になる前の修行先として小泉初代デジタル相は一案だ。小林氏あたりが副大臣として支えれば安定感を増そう。
日本は、O2O(オフラインからオンライン)やキャッシュレス普及すら苦戦する間に、中国などでは全てのオフラインの世界がデジタルに溶け込む社会システム(アフターデジタル)が着々と構築されている。猶予はない。