デジタルシフトには省庁再編に加えて大胆な人事制度改革を

酒井 直樹

新田編集長の記事、『自民政調デジタルシフトも10年遅れ。省庁再編で巻き返せ』を興味深く読ませていただきました。IT革命がもたらした経済のデジタル化の世界潮流に日本が乗り遅れたのは紛れも無い事実です。自民党の中にも、危機感を持って当たっていた議員が少なからずいたというのは正直驚きでした。

自民党内の10年前からのデジタル政策議論の経緯を知る関係者から、2000年代当時の若手・中堅議員たちが散々警鐘を鳴らして訴えてきたのに、取り合ってもらえなかった嘆きをこっそり明かしてくれた。

ようやく自民党政調がデジタルシフトに力を入れたことは歓迎すべきことであり、IT革命第二章のモノのインターネットという新たなステージにある今からでも巻き返しは可能です。

自民党がデジタルシフトを本格化させたところで、それを法律や政策で社会実装していく上で霞が関の体制が前世紀のフレームワークと変わっていないのが気がかりだ。

国家戦略として国丸ごと「デジタルファースト」の本気度を見せるのであれば、各省庁にあるデジタル関係の部署を全て統合するくらいの大胆な改造と、官邸主導による強い権限を持たせるくらいでなければなるまい。

これは、本当にその通りです。私は17年間アジア開発銀行にいて、インドやインドネシアなどの途上国の政策担当者を日本に連れてきて、電力分野での日本の先端的技術を紹介する活動を散々してきたのですが、先進技術といえば畢竟、IT分野が中心となります。そこでのカウンターパートはテーマにより、経済産業省・総務省・文部科学省・環境省とバラバラで、一貫性のなさを痛感していました。ですから、フランスに倣った「デジタル省」の創設は名案だと思います。

永田町から見た“不夜城”霞ヶ関方面(写真AC:編集部)

一方で、それと同時に、霞ヶ関キャリア官僚の人事制度にもメスを入れるべきと思います。組織だけいじっても、中で働く人々の素養やマインドセットが変わらなければ無意味だからです。

これは、一般には、あまり知られていないのですが、キャリア官僚は文系出身者主体の事務官と理系出身者主体の技官に分かれていて、一部の例外を除いて、事務系と技術系のそれぞれのキャリアパスがあって、技官にはガラスの天井があって枢要なポストに就けないという実態があります。まずもって、官僚のトップの役職名称が「事務次官」というのがその象徴です。事務次官に技官がなりうるのは国土交通省など一部です。

明治時代に作られた官僚システムが今も変わらず受け継がれていて、東京大学法学部卒が圧倒的に優位なポジションに付きます。同じ東大卒の同期でも工学部卒の技官はややもすると日陰の存在です。高度成長期までは、理系的センスは民間に任せて、もっぱら行政・政治学の遂行に専念する、この文系優位のシステムはワークしたのだと思います。

東京大学法学部出身者は時頭が良く器用なので、IT関連についての知見も豊かなのだとは思いますが、データサイエンスやモノとデータの融合などといった深い分野は、やはり理系が有利です。ですから、極端な事務官偏重は改める時にきていると思うのです。ましてや、最近は東大卒の官僚離れ(入試難易度で法学部と経済学部が逆転)や、優秀層の東大離れが進んでおり、制度疲労は明らかです。

さらに言えば、文系と理系を分けて管理する意味も薄れて来ています。GAFAの台頭に大きな貢献をしたのは、デジタル思考に優れたインド出身者です。インドでは、最優秀層は、IIT(インド工科大学)に入学します。そして、学部生活の4年間を理系ワークに専念します。IIT卒業後は、そのまま就職をする学生もいますが、トップ層はMBAで経営学を学びます。ここで重要なのは、理系学習が先で、その後文系(ビジネス・エコノミー)学習で、逆はありません。

考えてみれば、ビル・ゲイツは、ハーバード大で応用数学を学び、文系教育は受けていません。マーク・ザッカーバーグはハーバード大学理工学部計算機学中退です。スティーブ・ジョブスは大学をすぐに中退しました。

文系だ理系だとつまらないラベリングにこだわっていては、テクノロジードリブンのデジタル・エコノミーを牽引する司令塔となるべく人材育成ができません。「デジタル省」が実現した暁には、短期的には、技官と事務官の対等な実力主義の人事登用、長期的には年功序列・終身雇用的なキャリアシステムの抜本的な改革を、セットで進めるべきだと私は思います。

酒井 直樹
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