「焼肉屋は客に焼かせて店員が楽している」の文句を丁寧に論破してみた

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

「焼肉屋は自分たちが楽をして、客に肉を焼かせている」と、批判する声がはてな匿名ダイアリーに投稿されました。私は時々、焼肉屋に行くことがあるのですが、そのような発想は一度もしたことがなかったので驚くとともに、「そう見る人もいるんだな」とある意味で斬新な視点だなとも感じました。

このエントリーに対して20件近くのコメントが寄せられており、反応はさまざま、なかなか興味深いので取り上げたいと思います。

写真AC:編集部

投稿者の批判と周囲の反響

まずは、投稿されたエントリーを見てみましょう。

材料だけ客に押し付けて店員はのんびり。

店員の代わりに客が必死に調理。

生だったり焦げていたりする肉を食う。

馬鹿どもは「自分で焼くのがエンタメなんだ」とか言ってるけど

面倒なところをていよく押し付けられてるだけだよね。

雑巾のような肉を食って「安い!」とか言ってる。

むしろ給料が欲しいくらいなんだが。

引用元:はてな匿名ダイアリー「焼肉屋の楽しさがわからない」

それに対して寄せられたコメントは次のようなのです。

店員が焼いて出してくれる店いけよ

焼きたての肉が食える

油掃除を気にせず脂っこい肉を焼けるのがいいんだろ

投稿者に賛同するコメントはほとんど見られず、かなり批判を受けている様子です。

私の考えを最初に述べておくと、「投稿者の見ている世界は極めて限定的で、それ故に自分で焼くスタイルの焼肉店で食事をするメリットが認識できていない」ということです。最後の章で具体的に解説していきます。

焼肉店で肉を食べる4つのスタイル

まず、焼いた肉を食べる、という選択肢は次の4つのスタイルがあります。

  • 自宅で焼いて食べる。
  • 調理した肉を店員が席まで運ぶ。
  • 焼肉店で自分で焼いて食べる。
  • 焼肉店で料理人が焼いてくれる。

まず、自宅で肉を焼いて食べるという選択肢です。これはもっとも安上がりですが、最も「手間」がかかる方法でもあります。スーパーで肉を選び、新鮮な内に自分好みの焼き加減で味付けをする、また食後は食器やフライパンを洗うという労力も必要です。

さらに、家族の人数が多い場合は、大型のプレートを引っ張り出して調理をする必要があります。焼き肉を楽しむ、というすべてのプロセスに要する労力を考えると、かなりのものです。それでいて、得られるメリットは「焼肉店で食べるより安い」「外出の必要がない」というものですから、人によっては「いくら肉が安く買えても、労力の分が割に合わない」という人もいるでしょう。

次に調理した肉を、店員が席まで運んでくれるスタイルです。多くのステーキ店で提供されている方式です。目の前で肉を焼き、焼いた鉄板から直接頂くという醍醐味はありません。しかし、自分で肉を焼く手間などが一切なく、立ち食いスタイルで価格を抑えている店舗もあり、「とにかく焼く手間を省きたい」という人向けのスタイルと言えるでしょう。

そして焼肉店で自分が焼いて食べる、という今回の投稿者が不満を言っているスタイルです。こちらは主に食べ放題の焼肉店やその他の焼肉店で採用されている方式となります。価格は外食焼肉店の中でももっとも安価に抑えられていることが多く、その分運ばれてきた肉を自分で焼いて食べるという手間を受け入れる必要があります。

ただし、多くの人は自分で肉を焼いて食べる、というスタイルを「客が労力を押し付けられている」というより、「自分で焼くのが楽しい」というエンタメ要素として受け取っているようです。

最後は焼肉店にて、目の前で店員が焼いてくれるスタイルです。私も時々、利用しています。値段はそれなりにしてしまいますが、目の前で炎が上がるパフォーマンスを楽しめたり、プロの料理人が好みの焼き加減で仕上げてくれるなど、手間いらずで最高の味を楽しめます。

このように焼肉店でお肉を食べる、と一口にいっても4つのスタイルがあります。

食べ放題の店が儲かる理屈と同じ

食べ放題の店は2つの理由で、利益率の高いビジネスです。1つは料理を運んだり、注文をとったりする人件費を節約できること。それからもう一つは、1つの料理を大皿に盛り付けることが出来るという点です。後者は規模の利益と呼ばれるもので、20人に1皿ずつ料理を盛り付けるより、20人分の料理を1皿に盛り付ける方が効率面で良いという事実があります。

投稿者が不満を感じている、「客が自分で肉を焼くスタイル」というのは食べ放題が利益率の高い1つ目の理由、すなわち「人件費の節約」という点で共通しています。最近ではタッチパネル式で注文する店も増えており、店員がつきっきりで肉を焼くことがないため、その分多くの店員を抱える必要がなくなります。

全国チェーンの焼肉店「牛角」は、わずか創業15年たらずで全国600店舗以上展開したことからも、「客が肉を自分で焼くスタイルの焼肉店」のビジネスモデルの爆発力が見て取れます。

こうしたビジネス構造により、自分で肉を焼くスタイルのお店は店員が肉を焼かない代わりに、お客は値段が圧倒的に安く済むメリットを享受する構造になっています。

全体を知らないとメリットが見えなくなる

「自分で肉を焼くのは店員が楽をしているから」と考える、投稿者の見ている世界観はかなり限定的に感じます。正しくは「楽をしたいから店員が焼かない」のではなく、「販売価格を安くするために店員が焼かないよう、経営者が判断してそうしたビジネスモデルを採用している」です。

投稿者が不満を感じつつもそのようなお店にいっているのは、「自宅では手間がかかる」「料理人がついて焼いてくれる店は高すぎる」という理由から、客が自分で焼くスタイルを選んでいると思われます。で、あればもっとも自分に合うスタイルの店を選んでいるわけですから、不満を言うのはおかしな話で、自分で焼きたくなければ料理人が自分の代わりに焼いてくれるお店に行くしか選択肢がなくなってしまいます。

つまり、焼き肉を楽しむ4つのスタイルがありながら、自分が選んでいる焼き肉を楽しむスタイルのメリットが見えていないのです。

私は料理人が自分の代わりに焼いてくれるお店にも行くことはありますが、普段は自分で焼くスタイルの店に行きます。なぜなら、高級店は値段が張るということもなくはないですが、それ以上に入店して、すべての料理がサーブされて食べ終わるまでにものすごく時間がかかるからです。

ゆったりと食事を楽しみたいシーンは、家族との記念日などに限られます。ですので、私は一人で焼き肉を楽しみたい時は、必ずセルフのお店にいっています。でも、自分で焼くのが苦痛とは思いません。焼き肉、という本来は時間がかかるジャンルの料理を、自分のペースで速く食べ終えることが出来る、という大きなメリットがあるからです。

おそらく、投稿者は人生経験を経る内に色んな焼き肉のスタイルがあることを理解していくものと思われます。今回のこの記事がそうした認識のアップデートの一助になれば幸いです。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

■無料で不定期配信している「黒坂岳央の公式メールマガジン」。ためになる情報や、読者限定企画、イベントのご案内、非公開動画や音声も配信します。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。