車載電池トップのパナソニックが対峙する世界大競争

酒井 直樹

日本のメディアはあまり報じませんが、欧米では車載用蓄電池をめぐる熾烈な競争の詳細が報じられています。

先週公開された電気自動車専門の米国ウエブメディアINSID EVs 記事によれば、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が大きく伸びていて、一台当たりの容量も拡大し、それに伴い世界市場での車載用蓄電池メーカーの倍プッシュ設備拡張競争が熾烈を極めているとのことです。メガファクトリーがらギガファクトリーへさらにさの先へというフェーズの移行です。

同記事によれば、今年3月の車載用蓄電池出荷容量は前年比94%増の976万kWh(月間)、年間推定出荷容量は1億kWhを超えたとの予測です。

この間、PHV出荷台数は25%増加、PHV一台当たり電池容量は平均55%増加しています。

中国政府がバックにいると言われるCATLの躍進が凄まじく昨年比553%増加で、世界シェア13%となり中国独立系先行企業BYDに肉薄しています。いわば中国企業同士が競い合っています。

CATL公式ツイッターより:編集部

テスラ車搭載で先行するPanasonicは依然として世界市場でトップシェアを維持し、26%と推定されています。ではこのままパナソニックは先行逃げ切りできるのでしょうか。

日経新聞は、2019年4月15日付で、「パナソニック、試される「脱しがらみ」の本気度」と報じました。以下引用、抜粋します。

パナソニックが米電気自動車(EV)メーカーのテスラと米国で共同運営するEV向け車載用電池工場において、生産能力を高めるための投資を凍結することが明らかになった。12日の株式市場は過大な投資に対するリスクが軽くなったとして3日ぶりに反発したが、買い一巡後は伸び悩んだ。時価総額は2兆4千億円と直近のピークだった2017年11月の6割の水準にとどまる。

パナソニックが今後ともトップの座を守り続けることができるかどうかは、様々な不確定要素にかかっています。

第一に、車載用蓄電池は差別化可能で他社には真似できない性能で勝負可能なグッズか、他社もキャッチアップ可能なコモデティ製品かということです。上記のトレンドでは、中国勢やLG化学、サムソンSDIの技術力も相当上がっていることを意味しているのかもしれません。

第二に、コモデティだったとして、価格競争で勝ち残るには、市場規模の拡大に合わせて倍々ゲームの設備投資(ギガファクトリー)を迅速に繰り返す必要があります。たくさん作れば作るほど量産効果によって一台当たりの価格を下げられるからです。しかし、それは熾烈な価格競争に陥ることを意味し、利益率が下がり続ける中で、社運をかけて巨額の資金投入を繰り返すのは日本の大手企業はあまり得意ではありません。

何故なら、高い利益率の確保を常に株主から求められる(株式市場が保守的)し、大企業は様々な製品・ソリューションを販売している中で、蓄電池だけに全賭勝負して会社の命運を委ねるのはリスクが大きすぎるのです。ここで失敗したら会社丸ごと倒産してしまいかねません。この点競合の2011年創業のCATL社は電池の専業ですから、退路を絶って勝負にかけてくることが可能なのです。そのような痺れるようなチキンレースの果てにマーケットシェアを独占して初めて膨大な利益を享受できるというのがコモデティ市場のルールです。中途半端な投資は即死に繋がりかねないシビアな世界です。

第三に、競合相手には自社にはない隠し球がないかということです。CATLは中国共産党に近い実質的な国営企業だと噂されています。中国の国内市場では非関税障壁により圧倒的優位にあります。政府の資金がCATLの競争の原資になっているとしたらどうでしょうか?

CATLの中国本社ビル(ジェトロ公式サイトより:編集部)

そこで思い出されるのがシャープを苦境に追いやる一因となった太陽光パネルです。15年前に、私はアジア開発銀行でシャープ・京セラ・サンヨー電機(後にパナソニックに買収される)のインド市場への進出をご一緒していました。当時、シャープの太陽光パネルは技術水準も高く、世界トップシェアを誇っていました。そこに中国からサンテックという独立系企業が猛追してきました。採算度外視で大規模工場を上海郊外に建設して規模の経済で優位に立とうとします。

私は一応中立的な立場でしたので、Asia Solar Energy Forumという官民パートナーシップのNPOを東京に立ち上げて、シャープ・京セラ・サンヨー・そしてサンテックのシー社長にもご加入いただき懇意にさせていただきました。このNPO活動を通じ、太陽光発電をめぐる熾烈な世界大競争を間近で見ることになりました。

シャープは中国勢の倍プッシュ・倍々プッシュの生産拡大戦略に受けて立ちます。それまでは、奈良県の葛城という中規模工場でパネルを生産していましたが、堺に大工場を建設して勝負をかけました。結果はご存知の通りです。その間中国ではサンテックが何故か倒産しシー社長が失脚します。その後図ったかのように中国共産党傘下の国営企業群が次々と登場します。国営企業はインドで猛攻勢を仕掛けます。ちなみに、インドは中国のライバル国で中国にとってはアウエイでしたが、そこで価格競争を仕掛け、あっという間にシェアを独占、インドの太陽光パネルは中国製で染まりました。その後開いた日本のメガソーラー市場でもほとんどが中国製でした。

私は、インドでなんとか反攻を狙う日本企業からこんな愚痴を聞きました。「中国国営企業は見積書の金額を空欄にして顧客に渡す。顧客が数字を自由に入れて欲しい。と。」完全な採算度外視です。金銭感覚鋭いインド企業は競って中国製品を採用し始めました。中国にとっては、太陽光パネルとEVは国策投資だったわけです。シリコンの山元から権益を抑えていました。このように国を挙げて向かってくる競争相手に勝ち続けるのは至難の技です。

日本勢の奮闘を願ってやみません。やり方によってはまだ十分戦えます。

酒井 直樹 株式会社電力シェアリング代表

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