米中貿易戦争、全面対決なら携帯電話関連の勢力図はどう変わる?

米中貿易摩擦が苛烈さを増し、最近では中国側も「trade war」なる言葉を使うようになりました。
全面対決となれば、懸念すべきは携帯関連です。勢力図の変化と共に、物価への影響も気になりますよね。

(カバー写真:Nicolas Nova/Flickr)

米国の対中輸入品トップと言えば、HSコード第85類、つまり「電気機器及びその部分品並びに録音機、音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品」です。携帯電話や関連機器などを含むわけですが、その第85類で中国依存度は32.3%とさすがに高い。だからこそ、対中追加関税措置第4弾の発動に世間は戦々恐々とし、HSBCはアップルのiPhone価格をめぐり「最大150ドルの押し上げ」を予想したわけです。

その一方で、第85類で急速に存在感を放っている国が存在します。どこかと申しますと・・・ベトナムです。

こちらをご覧下さい。

(作成:My Big Apple NY)

第85類をさらに細分化し、6桁ベースで首位の製品を国別に並べてみました。すると1位は中国で変わらずながら、ベトナムが輸入額で目覚ましい増加をたどっているではありませんか。しかも、2019年に入って顕著になっています。

上位3ヵ国のシェアをみると、ベトナムの台頭は一目瞭然です。

(作成:My Big Apple NY)

対中追加関税発動直後の2018年7月には8.6%でしたが、2019年3月には34.0%へ上昇しています。逆に中国は同じ時期に78.8%%から57.9%へ低下していました。

華為技術の禁輸措置も重なり、ベトナムを中心に米国向け携帯電話関連の輸入減を穴埋めする国が出てきてもおかしくありません。IMFも、4月WEOで米中が共に全ての製品に25%の追加関税を発動した場合、中国の競争力が低下し、これまでの米国向け輸入シェア1位から4位に転落するシナリオを示していましたよね。

(作成:My Big Apple NY)

続いて、上記チャートで2位への浮上が見込まれるメキシコに視点を移してみましょう。メキシコの米国への輸入額(第85類)は2019年3月時点で52.6億ドルで2位(第85類でのシェアは18.6%)でしたが、メキシコ国内で半導体関連のエクスポージャーが拡大中で、その一因は賃金が挙げられています。メキシコの製造業誘致サポート団体であるCo-Production Internationalによれば、2011年にメキシコの賃金は中国を下回り、米国を始め近隣諸国企業のメキシコ進出を後押ししているのだとか(バイアスは禁じえませんが)。

対中追加関税発動後、携帯関連の生産者物価は比較的落ち着いた水準をキープしていますよね。対中追加関税第4弾発動のリスクに備え、関連製品の物価が上振れしかねませんが、それでも他国の生産が追い付けば、早急に収束する期待を残します。

そもそも、ドル高や商品価格の下落が物価上昇を抑制する可能性も捨てきれません。サプライチェーンの混乱を招くリスクが横たわるとはいえ、物価上昇が仮に発生しても一時的にとどまるのではないでしょうか。

(カバー写真:Nicolas Nova/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年5月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。