日経ビジネス最新号(6月3日号)の特集「村田製作所-なぜ最強なのか」を興味深く読みました。売上高営業利益率16.9%(2019年3月期)というダントツの業績を誇る組織力はどこから生まれるのでしょうか?私は「内部監査機能の強み」にあると思いました。
当社には約1000人の「改善士」なる社内資格者(専従者)が存在し、日々現場の効率性を高めるための仕事に従事されているそうです。現場の優秀な社員から選抜され、費用対効果の面で結果を残すことで評価され、さらに重要なポストに昇進するとのこと。コスト削減には組織横断的な提言がなされますので、様々な領域での知識が求められるそうです。
また、「商品技術」なる社内資格者も存在しており、新商品の開発技術などを顧客に説明するために、エンジニアとしてのスキルと営業におけるスキルを具備するメンバーを社内で育成しているそうです。この「商品技術」のスキルを備えることで、営業現場に広く権限委譲が行われ、他社よりも迅速な意思決定が実現できる、とのこと。
「改善士」も「商品技術」も優秀な社員から選抜された専従者(社内資格者-ただし「内部監査部」に所属している、というわけではありません)ということで、多様なスキルを身につけて、当然のことながら結果を残されなければ評価されないはずです。また、各セクションの人的資源と物的資源とのバランスや、セクション間の力関係なども理解したうえで、改善提案や裁量権限の行使に至るわけですから、「儲けにつながる内部監査」のプロと言えます。
内部監査による現場改善の提案といえば、ルールによる監督強化、人的・物的資源の充実、といったところが一般的かとは思いますが、そもそも上場会社では効率経営のための努力は目一杯頑張っておられるわけですから、そう簡単に資源の充実は図れないはずです。また、監督強化策も一時的には効果があるかもしれませんが、現場が疲弊するだけに終わってしまうことが多い。
村田製作所のケースでは、改善の提案や商品の説明に、製品技術や管理会計、営業活動のスキルを統合して活用するプロを活用することで業績の向上につなげている点は秀逸だと感じました。
村田製作所のように、ここまで社内資格を徹底している会社も珍しいとは思いますが、他社でも「内部監査部門」とは言わなくても、組織間の力学的なバランスにメスを入れるような「経営監査」に近い機能を果たしている部門が存在するケースもあるのかもしれませんね。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。