米中貿易戦争はますますその激しさを増し、止まる兆候が全く見られません。日本のメディアでは、ブロック経済化で輸出が減る、中国への部品供給が鈍る、米国が貿易交渉で強気に出てくるという主に3つの理由で、日本はその煽りを受けて停滞するという悲観論が大勢を占めています。
しかしそれはいささか近視眼的的なものの見方であって、落ち着いてより深く考えれば、日本にとってはむしろ良い結果をもたらすというのが私の見立てです。
平成の30余年を、日本がIT革命に乗り遅れ、55年体制を打破できず、米中に大きく水をあけられて経済・社会発展が停滞したた第二次世界大戦に次ぐ「第二の敗戦」だとすれば、令和の時代は、米中貿易戦争はいわば朝鮮特需であり、これから綺麗な水・高度な教育を受けた労働力・安定した電気を三種の神器として、新しい高度経済成長に邁進していくものと思われます。完全に逆張りですが、その理由をご説明します。
まず、トランプ政権の一連の施策を「正しいか、正しくないか」で議論することは全く無意味です。今、アメリカ議会では共和党・民主党の区別なくほぼ全議員が中国へ強硬策を主張しています。その理由はただ一つ、選挙で勝つためです。民主党支持者のインテリ層は、仕事に就けない若年層を中心に、自分の不遇を「中国のやり方はフェアではない」という言説を信じることでカタルシスを得ています。
対して、共和党支持者の労働者階級も、「中国が我々の仕事を奪っている」という物語を信じることで、自分の不遇を中国のせいにして鬱憤を晴らそうとしています。それが事実かどうかは関係ないのです。だから、米国民のほぼ全員が中国バッシングを主張する議員に票を入れます。それが関税を引き上げて自らの購買力を低下させたり、リカードが唱えた比較生産費説のように自由貿易が回り回って自分に利益をもたらすなんてことを考えないのです。国民は必ずしも合理的でないので、議会も合理的ではないのです。
もし、EU議会のようなものが拡張して、世界政府ができて、世界議会へ投票する民主主義があったなら、こういう結果にならないはずです。でも現実は、多数決を原理とする民主主義は国境を越えられないので、国境を越えた資本主義と喧嘩を始めることになります。中国だって選挙こそありませんが、大衆に不満を持たせないよう腐心するという点では、似たようなものです。
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もう少し世界潮流を俯瞰してみましょう。今世界のパラダイムは、同時並行で進む、三つのドライバーによって大きな変革を遂げようとしています。
一つ目は、このようなグローバル資本主義経済の行き詰まりです。冷戦の終結で世界全体一つの市場となって、IT革命と金融自由化でお金と情報が軽々と国境を越えるようになりました。そこでは、一番安い国で大量にモノが生産され、大量輸送され、世界中で大量消費されるようになり、お金で測る豊かさは飛躍的に増大しました。一方で、市場原理の外側で、環境問題や貧富の格差(外部不経済と言います)がもたらす社会不安が深刻になって、恩恵に預かれない多数の国民が行きすぎた資本主義経済に選挙でノーを突きつけるようになりました。
二つ目は、1990年代に起こったIT革命が第二段階に入ったことです。これまでの20年間は人と人の間で情報をやり取りしていたのが、モノとモノ、モノと人をつなぐモノのインターネット(IoT)の時代に入りました。そしてAIやロボット、自動化によって生産性が飛躍的に高まるデジタル経済化が進んでいます。あらゆることがデータで管理されていきます。
ちなみに、米国は自動車をやり玉に挙げて、日米貿易不均衡の是正への外圧をかけてきていますが、実はGoogle Apple Facebook Amazonが日本へ無形資産をお金ではない形で売りつけていてデータを米国本土に持ち帰っているので、お金では測れない「情報資産」の貿易では、圧倒的に日本の輸入超過です。日本はこの貿易不均衡で反論すればいいのです。
三つ目は、デジタル経済を基礎として、シェア経済化が進んでいることです。メルカリやUber、クラウドソーシング、クラウドファンディング、仮想通貨などのように個人と個人の間でモノやサービスあるいはお金ですら直接取引(これをP2P取引と言います)できるようになっています。
例えばUberでは、車と運転手の空き時間を複数の人が使用するので、車の生産台数は落ち、レンタカー会社やタクシー会社の売り上げや給料が落ち、回転するお金で測った市場規模を示すGDPはマイナスになります。しかし消費者にとっては、中間マージンがほぼゼロになったり、余った分を分け合ったりする事で所有しなくても安くて便利に使えるようになります。しかも出し手と受け手が目に見える形で繋がることが出来ます。
社会全体で見ても、ムリ・ムダ・ムラがなくなって、お金では測れない国民の豊かさ(外部経済と言います)はむしろ向上していきます。
コンマリこと、近藤麻理恵さんの「片づけ」が、三度の飯より買い物が大好きな米国の一般大衆の心を虜にしているのもその予兆です。フランシスコ・ザビエルならぬ「勿体無い」思想、そして日本流シェア経済の伝道師第一号とも言えるでしょう。
そして、この三つのドライバーは相互に密接に関わっていて、行き詰まりを見せているお金だけで測るグローバル資本主義経済を、デジタル経済化によってお金だけでは測れない豊かさを見える化して、国民全てが豊かさを分かち合え、環境的にも人道的にも持続可能なシェア経済(持続可能な開発目標:SDGの実現)へ移行する筋道が見えて来ています。私の会社はそれをビジネスにしています。
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四方を海に囲まれた島国で農耕を営んできた日本は、もともと世界でも類を見ないほどシェア経済が発展していました。「情けは人のためならず」や近江商人の「三方良し」という言葉に象徴されるように、田植えや入会地の手入れは村人総出で行い(今で言うところのクラウドソーシング)、お隣さん同士で味噌や醤油を融通したり、共同浴場に入ったり、駅の無料傘を使ったり普通にしていました。
戦前の大家族から、戦後の核家族へ、そして今では単身世帯が当たり前になりましたが、LineやTwitter などのSNSで緩く繋ぎ合って、同じニュースに喜びや悲しみを共感したり、慰めあったりする国民は世界中どこを探してもいません。ですので、日本独自の性善説に立った持続可能なシェア経済モデルを作って、それを世界に発信することで再び日本は輝きを取り戻すものと思われます。こればかりは、一朝一夕に他国が真似できるものではありません。
何と言っても、里山の豊富な自然(綺麗な水)と、勤勉な労働力と、停電時間年6分という世界に類を見ない安定した電気があります。
好むと好まざるとにかかわらず、イオンモールが全国にあって、綺麗に舗装されたバイパスのロードサイドにエコシステムが形成されています。あと3年もすれば、太陽光発電で充電された自動運転の格安シェアEVが、老若男女を保育園や老健施設や学校やシェアオフィスに送迎することになるでしょう。
環境が破壊され、地方部の人々が分断されて取り残され、電気も不安定で、基本的に信じられるのは血の繋がった家族だけという状況ではないし、自分の陣地に入ってくる者には容赦無く銃をぶっ放すという状況でもないし、自分の鬱憤を大統領や財閥トップにぶつけて、集団で引き摺り下ろす状況でもないのです。
外部経済を増加させ、外部不経済を低下させ、金銭価値だけでは測れない豊かさを世界のどの国も真似できないスピードで増嵩させる、お金では測れない第二の高度成長が始まる兆しが見えています。
株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹
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