大学入試センター試験が2021年から大学入学共通テストに代わることが決まりましたが、本当に問題なく実施できる、いや実施してよいのでしょうか?
これまでに大学、高校、予備校などの教員から、多くの問題点が指摘されています。
大学共通テスト、なお公平性課題 英語民間試験は8種(日経新聞)
特に記述式問題導入は、公平性や採点ミス等の問題が合否に影響を与えかねません。
大学共通テスト 記述式に課題 数学平均点は30点以下(産経新聞)
そもそも日本の大学入試では、1979年の共通一次試験導入以来文科省が一方的に繰返す改革と、大学(特に難関大)の要求する学力に合わせるため、これまで受験生や中高校が振り回されてきたというのが実態であり、文科省などに言いたいことは山ほどあります。
ただ、大学入試の在り方ともなると提言内容が多岐にわたりますし、新大学共通テスト1つをとっても英語の民間検定試験導入などがありますので、今回は共通テストに直接導入される記述問題に絞り、学校現場目線で意見を述べたいと思います。
私の地元県公立高校社会科の入試問題は、記述式が多く思考力・資料分析力をみるには良いのですが、採点する側にとっては採点基準で大いに頭を悩まし続けました。
同教科採点者は事前に県から送られてきた採点基準、模範解答例に皆で目を通した後、様々なパターンを予想して正解や部分点の採点基準を決めます。ところが子供たちの発想・創造力は大人の範疇を遥かに超えており、採点途中何度も基準のパターンに当てはまらない解答(例年何十種類も)に遭遇します。教員はその都度採点を一時中断し協議した上で採点基準を修正するため、採点時間も相当かかってしまうわけですが、これが採点現場の実態なのです。
公立高校では1教科当たり答案300~500枚を10名前後の教員で採点しますが、数十通りもの解答パターンとなると、採点基準が採点者間で完全に統一されているのか時々不安になった記憶があります。
あってはならないことですが、教員の連携不足や解釈の違いによる採点基準のブレ、時間経過とともに高まる集中力の欠如による採点・見直しミスについて、私はこれまでの経験上絶対に起こらないとは言い切れません。実際過去の都立高校入試では、採点ミスが百か所以上見つかったこともあったはずです。
一校答案数百枚の採点でこのような状況ですから、全国で約50万人以上が受験し、各地で1万人もの採点者が必要とされる「大学共通テスト」で、果たして短期間に記述問題でブレない採点基準を定め、採点者間の意思疎通を図り、ミスのない採点を行うことなどできるのでしょうか?
確かに公平性の確保について、大学センターが様々な工夫を試みていることは事実です。
国語では評価すべき具体的個所を何か所か決め、それが正しく記述されているか項目ごとにチェックし、条件をクリアした個数・箇所・組合せによって段階評価が決まる仕組みになっています。また、受験生が自己採点しやすいようにあらかじめチェック表がつくられ、項目ごとに記述条件を満たしていれば〇、満たしていなければ×を入れ、〇の個数・組合せを評価表に当てはめ、自分の段階評価を知るというわけです。
この方法なら一見採点基準はある程度定まるかのように思えます。しかしながら、それでも以下のような問題点や矛盾点があるのです。
- 記述問題では想像力・表現力を見るといいながら、マス目の使い方、字の書き方等の技術的部分でクリアすべき条件を課している。
- 国語の場合、受験生の個性を見るべき記述問題でチェック箇所を固定化し、その正答の組み合わせなどで評価を5段階に分けるだけでは、大学側は受験生にどういった分野の想像力・表現力がどの程度あるのか判別するのは難しい。
- 想像力・表現力を大雑把(上記2)に評価する程度のために、1万人もの採点者を用意し、従来よりも得点集計を1週間遅らせるほど労力と時間をかけるのは非効率であるばかりでなく、その後の受験生や大学へのしわ寄せも大きい。
- 記述問題は、採点基準についての指摘・協議・修正を採点者間で直接行えるように、同じ会場で同時に採点をしない限り完全な公平性は確保できない。
- 民間業者に採点を委託し1万人もの採点者を確保した場合、機密性・公平性の面から、受験生・親族との利害関係を完全に遮断できるのか疑問である。
大学入試センター情報によれば「国語記述問題の段階値をどう使うかは大学自身の判断による」とも書かれています。そうであるなら、大学共通テストにこれほど時間と人員をかけてまで、公平性や採点ミスに不安のある記述式問題を導入する必要性はないでしょう。
国がどうしても受験生の想像力・表現力を測りたいなら、国公立大の2次試験や私大独自試験に積極的に導入するよう各大学へ働きかければよいことであり、大学側も必要性を感じたなら自主的に導入するのではないでしょうか。
大学センター試験では同得点に数百人が並ぶのは当たり前でしたから、僅か1、2点の採点ミスや基準のブレが不合格につながることは十分に考えられます。
これらの事から、受験生の一生を左右しかねない全国統一の試験に記述式問題を導入するのは、やはりどう考えてもリスクが大きいと思うのです。
和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言