どの国でも慈善活動に対して、それを素直に受け入れず、それは税金逃れだとか言って批判する人たちがいる。スペインのポピュリズム極左政党ポデーモスがそうだ。党首のパブロ・イグレシアスを筆頭にZARAのオーナーであるアマンシオ・オルテガの慈善活動、特に医学分野における最新鋭の医療機器の病院への寄付を税金逃れだからそれを受け取らないように関係者に要請したということが5月になってメディアでも取り上げられた。
唯一それを批難したのはポデーモスの議員だけで、メディア、有名タレント、他政党それに医学会などは一斉にアマンシオ・オルテガの慈善活動の味方になった。特に、医学会ではガン治療における医療設備の遅れを取り戻すために大歓迎でそれを受け入れていることを表明している。
また、政党シウダダノスの議員のひとりはオルテガを批難する急先鋒のポデーモスの一人の女性議員に対して、「彼女が負担している社会保障費はポデーモスの組織委員長が内緒で雇っていたホームヘルパーに払っていた金額よりも少ない額だ」と言って皮肉った。
(参照:okdiario.com)
社会保障費の支払いをできるだけ低額に抑えようとする彼女のような政治家にオルテガを批難する資格はないと断定したのである。また、ポデーモスの党首パブロ・イグレシアスは昨年5月に高級住宅地区に床面積260平米の高級邸宅を構える2300平米の芝生に囲まれた敷地を60万ユーロ(7800万円)で購入した。(参照:elperiodico.com)
ポデーモスが創設された主旨のひとつは社会で差別されている貧困者らに支援の手を差し伸べるということであった。その主旨を先頭になって唱えていた党首が自分のことになると別格だといっているかのように高級邸宅を購入したことに強い批判が党内からも起きて、一部議員は離党した者もいた。また、一政党の党首ということで、彼の邸宅を警備する為に治安警察の見張り所も設置された。そのような政党党首がオルテガが自ら得た配当金を市民の為に医療分野に使うということを「税金逃れだ」といって批判しているのである。
アマンシオ・オルテガはZARAを含め8つのブランド企業を傘下に置く親会社インディテックス(Inditex)のオーナーとして毎年受け取る配当金を2つの事業に充てている。ひとつは不動者事業のポンテガデア社と、もうひとつはアマンシオ・オルテガ財団である。
今年彼が受け取る配当金は16億2620万ユーロ(2114億円)で、5月と11月の2回に分割して受け取っている。昨年の配当金は13億8600万ユーロ(1802億円)であった。
(参照:expansion.com)
ガン治療における医療設備の寄付は2015年から始まり2021年に終了することになっている。これにアマンシオ・オルテガ財団が充てている金額は3億1000万ユーロ(403億円)だ。スペイン全国の公立病院を対象にしている。CT一体型リニアックを始め最新鋭のマモグラフィー装置やTACなどがこの支給額で充てられることになっている。
スペインの医学は世界でも高いレベルで、しかも患者の医療負担が社会保障費で賄われるという市民にとって医療負担が日本などに比べ非常に低いものになっている。公立病院での手術費は無料である。
ところが、「医療設備という面になると放射線治療分野において医療機器が7-8年の寿命に対し、40%は12年以上使用されており、一部は19年使用されているものもある」と指摘しているのはスペイン放射線腫瘍学会(SEOR)のカルロス・フェレール会長である。ということで、医療機器の最新鋭のものに切り替えが必要とされているのである。それにはアマンシオ・オルテガ財団からの支援は大歓迎ということなのである。
(参照:libremercado.com)
現在、スペインの全国の公立病院で要望したガンの早期発見及び治療の医療機器が配置されて100%機能しているのは17の州ある中で4つの州だけだという。それ以外の州では50%機能しているとかいった状態だという。配置が遅れているのは各州の行政面での問題からである。
先ず、州政府は公立病院から必要な機器の要望を募る。該当する機器を入札。落札した病院に医療機器の製造企業がオファー。それを病院の方で選択した段階で原子力安全委員会からの許可を取得する必要がある。そのあと病院に医療機器が配置された段階でアマンシオ・オルテガ財団が該当する州政府に支払いが実施される。以上の官僚システムを通過せねばならないために入札からの医療機器の配置まで最低でも8か月が必要だとされている。
(参照:elmundo.es)
この基金で一番割り当て額の多いのはカタルーニャ州とマドリード州で、それぞれ4680万ユーロ(60億8000万円)と4650万ユーロ(60億4500万円)。それに続いてアンダルシア州4000万ユーロ(52億円)とバレンシア州2980万ユーロ(38億7000万円)となっている。全国レベルで70の病院が恩恵を受けることになっているという。
(参照:elmundo.es)
更に、アマンシオ・オルテガ財団は米国に留学するスペインの高校生を対象に2010年から始めて2020年までに4000万ユーロ(52億円)を奨学金に充てている。これまで2325人の学生がこの恩恵を受けている。
更に、同財団はインディテックスの世界の下請け工場が所在する国に社会福祉と教育分野で支援を実施している。更にベネズエラなどへの人道支援も展開している。2018年はこの目的で7000万ユーロ(91億円)を充てた。同様にインディテックスからも4600万ユーロ(59億8000万円)が提供された。(参照:elmundo.es)
ポデーモスが批判した税金逃れということについて、2018年度のインディテックスが世界で納めた税金は61億6600万ユーロ(8016億円)であった。その内の17億ユーロ(2210億円)がスペインの税金で納めたものだという。(参照:okdiario.com)
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家