天守閣にエレベーターは必要かは大事な議論だ

八幡 和郎

大阪迎賓館(西の丸)で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)夕食会で、安倍晋三首相が、大阪城にエレベーターを付けたのを「大きなミス」と発言したことに、“安倍だからダメダーズ”が襲いかかって波紋を拡げている。

首脳陣との夕食会で挨拶する安倍首相(官邸サイト:編集部)

東京五輪・パラリンピックを控える中で、バリアフリーの意識の欠如だというので、これで安倍支持率は下がると歓喜の声を上げている。

発言の中身はこのようなことだ。

「明治維新の混乱で大阪城の大半は焼失したが、天守閣は今から約90年前に16世紀のものが忠実に復元されました」

「しかし一つだけ、大きなミスを犯してしまいました。エレベーターまでつけてしまいました」

この鉄筋コンクリートの天守閣は、昭和初期に昭和天皇の御大典記念として市民の請西によって建てられた。

天守台の石垣は徳川時代のものだが、デザインは「大坂夏の陣屏風」にある豊臣時代のものをもとにデザインされた。上層の逓減率が低い江戸風でなく、大屋根の上に小型の楼閣が重なっており、装飾も桃山風の華やかさだ。さらに、その後、金の鯱なども加えられた。ただし、本来は漆塗りの黒い壁だったが、当時は時代考証が不十分だったので、壁は白い。

この天守閣の目玉の一つがエレベーターの設置で、もとは最上層の下までだったが、1997年に最上層にも設けられた。

安倍首相のエレベーター発言は、近代的な構造になっていることの象徴としてのもので、エレベーターにとくに焦点を当てたものでない。

ただ、実は城の天守閣が典型だが、文化財やそれを復元する場合にエレベーターなどを設けるかどうかは悩みの種だ。

官邸サイトより:編集部

かつては、鉄筋コンクリートで再建するのが多かったが、最近は史跡だと文化庁のマフィアが認めてくれなくて木造になる。そうするとエレベーターは難しい。もちろん補強すれば技術的には可能だろうが、デザイン変更などを文化庁が認めるかが問題になる。

やりようによっては、隣接地にエレベーターを設けて回廊でつなぐのも可能だが、景観上の問題もある。

あるいは、姫路城や松本城の天守閣に障害のある人や高齢者でも登れるように、エレベーターを付けるべきなのだろうか。急な階段を撤去して緩やかなものに変更すべきなのだろうか。

さらには、たとえば、彦根城のような平山城の場合だと、麓からトンネルを掘って天守閣のある広場までエレベーターやエスカレーターで上がれるようにした方がいいのだろうか。そうでなくとも、昔からの石段をやめて、上りやすい近代的なスロープにすべきか。

山寺の場合はドライブウェーをつけたりするのはどうか。比叡山のドライブウェーなどいまはつくれないかもしれない。

鳥取県の国宝投入堂など、アプローチしにくいのが値打ちみたいなのはどうするのだろうか。さらには、文化遺産でなく自然遺産でも富士山の頂上まで障害がある方でも登れるようにすべきなのだろうか。

こうした問題は、複数の価値観が錯綜しているので、なにが正しい回答などいえないのである。そのへんについて、いろんな考え方があっていいわけで、それにもかかわらず、安倍首相の発言を悪意でねじ曲げて便乗批判する輩はまことに心が貧しい。

ちなみに、私自身についていえば、鉄筋コンクリートの復元もエレベーターやドライブウェーで登りやすくすることにも比較的、前向きだ。

ただし、たとえば、お城の天守閣はもともと殿様でも登楼することなどほとんど無かったのであって、登ること自体に意味があるとは思わない。しかし、もし、どうしても登りたければ、特定の日を年に何度か決めて、イベントとしてボランティアの手助けで登れるようにすれば良いと思う。


八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授