「正確・公正な報道」は、新聞の生命線ともいえる根幹だ。
しかし、毎日新聞幹部の発言をみていると、社としてその根幹を守るつもりがあるのか、疑いが生じる。
ひとつは、毎日新聞社執行役員(編集編成担当)・松木健氏の発言が、ダイヤモンドオンラインの記事「毎日新聞が200人規模の早期退職、役員の呆れた『仕事削減策』に怒る現場」(2019年7月2日)で紹介されている。
人員削減に伴うしわ寄せを危惧する労組との団体交渉で、「テレビを見て取材する方法もある」「発表モノで県版を埋めてもいい」と発言したという。もし本当ならば、新聞のあるべき姿からあまりに遠い。こうした姿勢が、今回の一連の虚偽報道にもつながったのでないかと、重なってみえてならない。
もうひとつは、毎日新聞グループホールディングス取締役・小川一氏のツイッターでの6月18日付の以下文面だ。
「公開された記録文書にはWG委員の『そんなことをこちらから説明しなければならないのか! 水産庁で調べるべき話だろう!』の記述がありました。行政文書にびっくりマーク(!)がつくのは珍しいと思います。」
記事をご覧になっていない方もあろうが、これは、一連の虚偽報道のうち6月19日朝刊の記事(ネットでは18日公開)を小川氏が紹介したものだ。記事の見出しには「原氏発言」「『水産庁で調べるべき話だろう!』」「野党『どう喝では』」とあり、要するに、私が恫喝発言をしたと実質的に決めつけた記事だ。
だが、その根拠はというと、水産庁職員の残した非公式メモにある「!」(びっくりマーク)ぐらいだ。しかも、このメモは、発言者に確認をとって作成された文書ではない。メモに残された乱暴な言葉遣いが実際の発言どおりなのか、誰も検証していない。
こんなメモひとつで、恫喝発言をする人物と決めつけられるのは、甚だ迷惑なことだ。ちなみに私は、当日に反論文でも示したが、会議で通常そんな乱暴な言葉遣いをしない。それに、そもそも恫喝は一般に、論理的な議論は不得手だが、何らかの力の優位を有する人のやることだと思う。私はその条件にあてはまらない。
私は、こんな根拠薄弱な記事はさすがに現場の暴走で、経営幹部や社内の良識ある人たちは「これはまずい」と心配しているのかと思っていた。
全くの思い違いだったようだ。取締役は無邪気に「!」にびっくりしただけで、記事の正確性に疑問を持った形跡は何らない。このツイートを数日経ったのちにみつけて、本当にびっくり(!)した。
2つの発言に通底する問題の本質は、「正確・公正な報道を行い、公共的使命を果たそうとの姿勢、社内体制があるのかどうか」だ。もしないならば、フェイク新聞だ。発行し続けるべきでない。まして、税法上「事実を掲載する新聞」に適用される軽減税率の適用を受けるべきではない。
7月2日、私は毎日新聞社代表取締役社長への「公開質問状」を送付した。
この質問状への回答で、「正確・公正な報道を行い、公共的使命を果たそうとの姿勢、社内体制があるのかどうか」がわかるはずだ。
以下に全文を掲載する。記事への反論をどう受け止めて対応するのか(質問1)。記事を出す前にどんなチェック体制があったのか(質問2)。あわせて、取材過程で公務員から違法な情報提供を受けていないか、国会議員との間で取材者・取材対象者の関係を逸脱した関係(毎日新聞の言葉を借りれば「協力関係」)がなかったなどを確認するための質問も加えている(質問3・4)。
公共的使命を果たそうとする新聞社であれば、必ず誠実なご回答をいただけると思う。社長の回答をお待ちしている。
質問
株式会社毎日新聞社
代表取締役社長 丸山昌宏殿
貴社の発行する毎日新聞2019年6月11日以降の一連の国家戦略特区に関する記事について、質問状をお送りします。本書面到達から7日以内に、回答を書面でいただくようお願いします。
なお、本質問状は送付と同時に公開します。いただいた回答も当方にて公開しますので、この点をご了承のうえでご回答ください。また、回答は、ご担当者ではなく、社長自ら行っていただくようお願いします。
1、毎日新聞の一連の記事では、概略以下の事項が指摘されました。これらにつき、私は別添(別便で送付します)の反論書をすでに公開しています。それぞれの事項につき、反論書を踏まえての見解を示してください。
1)原・特区WG委員が立場を利用して200万円の指導料を受領し、会食接待を受けた。
2)「審査」する側の委員が特定の提案者に助言した。
3)ヒアリング開催が「隠蔽」された。
4)原委員が会議で恫喝的発言を行った。
5)隠蔽審査で内閣府が原委員に謝礼を支払った。
2、毎日新聞の一連の記事の掲載に至るまでに、毎日新聞社内で誰がどのようにチェックを行ったのかを教えてください。
3、毎日新聞の一連の記事の掲載に至るまでに、行政機関職員から担当記者への内部告発、情報提供その他これに類する連絡はありましたか。もしあれば、その内容および行政機関職員の在籍する省庁・部署・役職を教えてください。
4、「国家戦略特区利権隠ぺい疑惑追及 野党合同ヒアリング」に参加する国会議員と担当記者の間で、これまで、本件記事またはその内容に関して、面談、電話、メールやSNSによる個別連絡はありましたか。もしあれば、その日時、内容および国会議員のお名前を教えてください。
<補足>
質問1は、すでに提起している訴訟とは別途、これまで掲載されてきた記事全般に関して、貴社の見解を伺うものです。
質問2は、記事掲載のプロセスを伺うものです。
質問3および質問4は、それぞれ、行政機関職員と貴社の役職員、国会議員と貴社の役職員との間で、違法または不適切な行為がなかったかを確認する目的です。
いずれも、高度な公共性を有する報道機関としてお答えいただくべき質問と考えますので、誠実にご回答いただくようお願いします。
なお、毎日新聞の一連の記事の中では、これまで、特区の提案者を守るための非公開を「隠蔽」と呼んできました。上記質問は一部、情報提供者の利益などに関わる可能性もありますが、毎日新聞記事の考え方に基づけば、上記質問に回答しないことは「隠蔽」にあたるはずです。自ら発行されている新聞の記事の考え方と整合性を保って、本質問状に対応いただくようお願いします。
2019年7月2日
原 英史
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原 英史
1966年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理などを務める。著書に『岩盤規制 ~誰が成長を阻むのか』(新潮新書)など。
編集部より:この記事は原英史氏がFacebookに投稿された毎日新聞に対する抗議文をベースに作成されました。 原氏に賛同し、他にも掲載されているメディアもあります。記事が拡散され、アゴラでも関連の意見が投稿されるなど社会的な議論が広がりつつあります。