1. 記事の主旨
去る7月1日、経産省が韓国向けの輸出管理の運用見直しの方針を発表した。
措置としては大きく
①韓国の輸出管理上のカテゴリー見直し(ホワイト国から非ホワイト国へ)
②フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の韓国向け輸出および製造技術の移転(装置の輸出に伴うもの含む)を包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え
という二つがある。
この措置は日韓関係の将来を左右する極めて重要な意味を持つので、この制度改正については日韓共にセンセーショナルな報道がなされている。そこで、ここでは議論の土台として、この措置に関する正確な理解を促すために、以下やや煩雑となるが制度的に正確な説明をすることとしたい。
2. 韓国に対する輸出管理措置の概要
①韓国の輸出管理上のカテゴリー見直し(ホワイト国から非ホワイト国へ)
・外為法第48条1項では
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
としており、原則として安全保障上重要な貨物の輸出は許可制となっている。
ただしこの規定に関しては例外として輸出貿易管理令第4条で特例措置が定められており、同令に基づき指定された国(いわゆる「ホワイト国」)に関しては適用が限定される。
今回の政令改正は韓国をこのホワイト国リストから除こうとするもので、現在パブリックコメント中だが、順当に行けば、おそらく8月中旬〜後半ごろに「韓国の非ホワイト国化」は実施されるものと見込まれる。
②フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素韓国向け輸出および製造技術の移転(装置の輸出に伴うもの含む)を包括輸出許可から個別輸出許可―審査への切り替え
前述の第48条に加えて外為法第25条では
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
としており、こちらでは技術移転の管理をしている
この外為法 第48条 第25条に基づく許可に関して、経産省は特例的にホワイト国を対象とする一部取引について最大3年を限度として一括して許可を行う「包括許可制度」を運用しているが、韓国は現状ホワイト国でありながら一部品目については包括許可の対象から取り外すこととした。経産省はこのために韓国のみを対象とする「り地域」(以下参照)とする分類まで創設している。
つまり今後は韓国だけを対象とした貿易管理が可能となった。
この制度を利用して経産省は韓国を当面ホワイト国としたまま、以下の品目について包括許可の対象から除き、今後は技術移転も含めて個別の契約ごとに許可が必要とした。またあわせて契約の許可の審査は各地方局ではなく、経済産業省本省が自ら審査するものとした。
①軍用の化学製剤の原料となる物質又は軍用の化学製剤と同等の毒性を有する物質若しくはその原料となる物質として経済産業省令(=貨物等省令第2条第1項第1号へ)で定めるもの
→これが「フッ化水素」にあたる。なお、正確にはフッ化水素の原料となる物質(貨物等省令第2条第1項第1号イ〜ホ)も含まれる。
②結合ふっ素の含有量が全重量の一〇パーセント以上のふっ化ポリイミド(貨物等省令第4号14号ロ)
③レジストであって、次のいずれかに該当するもの又はそれを塗布した基板(貨物等省令第6条第19号)
イ 半導体用のリソグラフィに使用するレジストであって、次のいずれかに該当するもの
(一)一五ナノメートル以上二四五ナノメートル未満の波長の光で使用することができるように設計したポジ型レジスト
(二)一ナノメートル超一五ナノメートル未満の波長の光で使用することができるように設計したレジスト
ロ 電子ビーム又はイオンビームで使用するために設計したレジストであって、〇・〇一マイクロクーロン毎平方ミリメートル以下の感度を有するもの
ハ 削除
ニ 表面イメージング技術用に最適化したレジスト
ホ 第十七号ヘ(二)に該当するインプリントリソグラフィ装置に使用するように設計又は最適化したレジストであって、熱可塑性又は光硬化性のもの
3. まとめ
以上のように今回の制度改正は
①韓国をホワイト国から除く手続きに入った
②韓国をホワイト国にしたままでも広範な輸出管理を行える新たな制度を作った
という二本立てからなりたっている。
いずれの措置も既存の貿易管理の枠内で、新しい制度を作ったものである。その意味では日本は現行制度の中でできることをしたまでだが、韓国を狙い撃ちにした制度であることは間違い無く、韓国の「WTO違反」との指摘もあながち根拠がないわけではない。
一部には「個別同意にしても他の国並みで、いずれにしろ輸出が許可される可能性は高いのだから問題ない」という声もあるが、私見としてはそうは思えない。貿易管理の枠組みにおいて本省自ら個別契約の審査をするのは「原則NG」とするものが中心で、ある程度運用が固まり事務が地方局に降ろされるまでは輸出制限に近い効果が生じるものと思われる。
個別品目が韓国産業界に与える影響や、この措置の是非自体については、本稿の目的を超えるのでまた別の機会があればまとめることとしたいが、仮にこの措置が長期化した場合、韓国産業界の命運は日本の経済産業省に握られることになるのは間違いないだろう。
宇佐美 典也 作家、エネルギーコンサルタント、アゴラ研究所フェロー
1981年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年9月に退職後は再生可能エネルギー分野や地域活性化分野のコンサルティングを展開する傍ら、執筆活動中。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、』『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界』 (新潮新書)など。