参議院選挙の勝者・敗者について総括してみたい。まず、偽リベラル系マスコミでは、「改憲勢力3分の2を失う」といったように、安倍首相の念願である改憲が難しくなったという見方が多いようである。
しかし、これは間違いだ。もともと、与党と維新で3分の2というのは、かなり、難しかったのである。なにしろ、改選の大勝となった2013年の選挙は、2012年の年末に民主党政権が倒れた直後で、自民党の地滑り的大勝だった異常事態で、その再現は無理である。3年前より良かったというのは大出来だ。
しかも、野党の共闘が進み、共産党が候補を下ろしてのことだし、定数是正も6年前よりは自民党に不利に働いている。
改憲については、たとえ、ぎりぎり3分の2を確保したところで、公明党が承知しそうもない。また、強引に発議しても国民投票で負けるだろう。それを考えれば、現在の野党のなかの改憲勢力に声を上げさせるような工夫なくして実現するとは思えない。
そういう意味では、ぎりぎり3分の2を超えるかどうかは重要と思えない。むしろ、ポイントになるのは、消費増税もそうだが、改憲についても正々堂々とそれを訴えて選挙に勝ったことだ。その意味では、着実に改憲という頂上をめざしての登山は進んでいるのである。
なかには、「総理は改憲に熱心でない」という人もいるが、私の見るところ、安倍首相は自分以外に改憲を本気で実現しようという政治家はいないと認識していると思う。自民党の政治家ならそのほとんどは改憲をしたいのである。ただ、それに政治生命をかけるという人はあまりいそうもないということだ。
これから、国民民主党はその方向性をめぐって悩むことになろうが、路線問題をめぐっての葛藤の中で政界再編成はあり得るのではないか。憲法改正が実現するとすれば、現在の野党のうちそれなりの部分が賛成に回ったときだと思う。大連立もありうべしだ。
そして、私は憲法改正への反対を野党が掲げている限りは、野党としてそれなりの勢力は保てても、政権復帰は難しいと思う。その意味で、公明党がブリッジになって、「ほどほどの憲法改正」を済ませてもらった方が野党のためにかえってよい。
今回の選挙で意義が大きいのは、自公両党が消費増税を訴えつつ勝利したことだ。維新は増税には反対だが、松井代表も、「自公が増税を掲げて勝利したのだから」と徹底抗戦はせず、定数減などを条件に容認する方向性をにじませていたし、それは筋の通った考え方だ。
ちなみに、私は増税賛成である。景気との関係では、増税して、かわりに初年度はその分をそのまま財政支出の増加に振り向ければ景気に悪影響を与える理由などないのである。あるとすれば、消費増税はたとえ代替景気対策をとったとしても景気に悪いというカルト的な思い込みがゆえだ。一方、長期的な直間比率の是正はなんども増税中止などしていると難しくなる。
ときどき、アゴラでも書いているが、平成の30年間で日本のGDPは1.6倍。中国は34倍だし、アメリカは3倍超、欧州もそれに近い。どうしてそんなことになったかといえば、産業(製造業だけでない)の競争力が低下したからであって、それは、マクロ経済の運営でリフレ派的な金融政策やMMTのような野放図な財政政策をしなかったから、などとは関係がない。
個人であれ企業であれ、本業をしっかりすることが金持ちになる近道で、「財テク」はほどほどの関心で十分だ。奇抜なマクロ経済政策をとって経済を好転させようなどという安直な考えは棄てるべきだ。
そもそも中国と日本の差は、日本がバブルで経済低迷と財政難から脱出しようなどと言う甘い考えに走ったのに対して、中国がそういうことをしなかったことに起因するのであって、バブルは起こした以上は崩壊するのは当たり前で、崩壊が問題ではないのである。
いずれにしても、政治的にも政府は消費増税はするべきだ。増税をするしないが政治課題である限りは政権を不安定にする。してしまえば、それを戻せというのは超少数派だし、これまでの経緯からしても、国民民主党もそれほど抵抗するとは思えない。
自民党内では、岸田派が広島,滋賀、秋田、山形で現有議席を失ったことが衝撃的だ。共通点は、いずれも現職の日常活動に問題が指摘されていたところだ。岸田派は大人の集団だけに所属議員に手取り足取り指導するという機能が欠けているのではないか。
それでは、総裁選挙でも役に立たない。竹下派、細田派はそのあたりはそこがしっかりしているのだ。
落選した広島県の溝手氏には同情するが、『溝手氏は支援者に「2人出すのは、やはりばかげた話。今後、自民党として考えなくてはいけない」と述べた。』といった報道もあった。また、それを岸田氏がフォローしているともいう。
2人区で2人出して共倒れならこういう談話もあるだろう。しかし、1人は当選しているのである。逆にこれまで1人しか出してこなかったから党としての力が落ちたということではないのか。共倒れが心配でないなら、積極的に複数立候補をするべきだと思う。
ちなみに、私の住んでいる京都府は2人区だが、自民党はだいたい安泰で、のこりの1議席を旧民主・民進党系と共産党で争う。今回は共産党の現職に立憲民主党の女性候補者が挑戦したが、穏健な中道左派の人にとっては御免被りたい候補だった。
そして、自民党は党内保守派のスターで消費増税反対の急先鋒である西田昌司氏だった。これでは、有権者のほとんどを占める、穏健保守やリベラル・穏健左派の人はどこに投票すればいいのか困っていた。次回は自民党が2人だすか、公明か維新からもう1人出して欲しいと思う。
公明党と維新については、大勝利だ。私も最終盤で「自民党支持者も選挙後の政局を睨んだら、東京では維新、埼玉・神奈川・愛知・兵庫では公明に投票したほうが良い」とか書いていたが、結果を見れば、そういう賢明な判断をした人が多かったように見える。そのことは、国政運営において、公明、維新両党の協力を政府が得ることをなにがしか容易にすると思う。
野党の問題については、また、あらためて書きたい。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授