徴用工問題:韓国側の主張を支持する日本共産党の問題点

加藤 成一

韓国「徴用工判決」を支持する日本共産党

日本共産党は、徴用工問題について、2018年10月30日の韓国大法院「徴用工判決」を支持し、日韓請求権協定により徴用工個人の請求権が消滅しないことを理由として、日本企業の法的損害賠償責任を認める立場である。すなわち、徴用工個人の請求権が消滅しないことと、日本企業の法的損害賠償責任を短絡させているのである。

大法院勝訴に沸く元徴用工の原告側(KBSより:編集部)

しかし、同種の事案である「中国人強制連行事件」(「西松建設事件」)に関する日本最高裁判例は、

「日中共同声明によって個人請求権は消滅しないが、裁判上請求する権利(訴権)が消滅しているから、日本企業には法的損害賠償責任はない。」(2007年4月27日最高裁第二小法廷判決。民集61・3・1188)

と判示し、原告の元中国人労働者の請求を棄却している。

日本共産党の立場は日本最高裁判例に違反する

上記日本最高裁判例によれば、日中共同声明によって元中国人労働者の個人請求権が消滅しないことと、日本企業の法的損害賠償責任を峻別しており、日本共産党のように両者を短絡させ、日本企業の法的損害賠償責任を認める立場は、明らかに上記最高裁判例に違反する。

両者を峻別し、国際条約の締結によって個人の裁判上の請求権(訴権)が消滅する理由について、上記判例は、

国際条約を締結しても、個人の裁判上の請求権が消滅しないとすれば、戦争遂行中に生じた種々の請求権を事後的個別的な民事裁判によって解決することになり、双方の国家国民に不測の過大な負担をもたらし、混乱を生じさせるからである。

旨を判示している。

これは、実定国際法上の大原則である「法的安定性」「信義誠実の原則」「一事不再理の原則」に基づく極めて正当な国際法解釈と言えよう。日本政府も基本的に同じ立場であり、国際条約の締結によって個人請求権は消滅しないが、外交的保護権や裁判上の請求権(訴権)は消滅するとしている。

中国人強制連行事件と韓国徴用工事件は異なる

共産党・志位委員長(Wikipedia)

日本共産党は、上記日本最高裁の西松建設事件では和解が成立し、その他の花岡事件などでも和解が成立しているから、韓国徴用工事件についても、個人請求権は消滅していないとの日韓両国政府および両国裁判所の「一致点」において解決すべきであると主張する。しかし、和解が成立した西松建設事件や花岡事件などは、いずれも中国人強制連行事件であり、韓国人徴用工事件ではない。

その理由は、中国人強制連行事件では、日中共同声明5項で、両国国民の友好のために、中国側は日本に対する戦争賠償請求権を放棄しているのに対して、韓国徴用工事件では、日韓請求権協定1条、2条で、国及び国民間の一切の請求権問題が完全且つ最終的に解決され、韓国側は、日本から無償3憶ドルを含む合計8憶ドル(当時の韓国国家予算の2倍超)もの莫大な供与を受けており、国際法上到底両者を同列には扱えないからである。

法的根拠のない「一致点」での解決の主張

日本共産党は、徴用工問題について、「被害者救済」との名目で、上記「一致点」での解決を主張しているが、上記日本最高裁判例によれば、日本企業には「法的損害賠償責任」は存在しない。そうすると、共産党の上記主張は、日本企業には「法的損害賠償責任」が存在しないにも拘わらず、何らの法的根拠もなく、事実上和解を「強要」することにもなり、実定国際法上の大原則である「法的安定性」「信義誠実の原則」「一事不再理の原則」にも抵触し、その影響は計り知れないと言えよう。

なぜなら、韓国政府認定の徴用工は22万人を超え、「徴用工判決」による慰謝料は一人当たり1000万円であるから、総額2.2兆円もの天文学的金額になるうえ、中国、北朝鮮、東南アジア諸国にも波及し、日本の国益を著しく害する重大な事態になりかねないからである。

よって、日本共産党の「一致点」での解決の主張は、何らの法的根拠もないうえに、日本の国益を著しく害する危険性があると言わざるを得ない。日韓徴用工問題の本質は、あくまでも実定国際法である1965年成立の日韓基本条約及び日韓請求権協定に基づき、韓国の国内問題として、韓国政府の全責任において解決されるべき問題であり、いやしくも、日本に対して「二重払い」を要求する筋合いのものでは全くない。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
外交安全保障研究。神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生修了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。