横浜にカジノが必要ない理由

林文子市長のカジノ誘致表明を受けて

林文子市長が、カジノを含む統合型リゾート(IR)の横浜市への誘致を表明しました。市長は誘致を巡り当初「持続的な発展のために必要」と前向きな姿勢を示したものの、地元企業グループや市民団体からの反発を受け、2017年の市長選を前に「白紙状態」であることを宣言し、選挙での争点化を避けました。

にも関わらず、だまし討ちの形で今回の誘致の意向を表明したことには怒りを禁じ得ません。
本日の市長による表明は、今秋の国会でカジノ委員会が設置されるという状況にせかされ、横浜市民に対して十分な説明責任を果たしていない不誠実極まりないものであります。

カジノ誘致に関する国民の声

2017年7月の市長選当時、共同通信社の出口調査の結果では、61.5%の人が「誘致すべきではない」であり、「誘致すべきだ」の人はわずか16.3%でありました。

全国を見渡しても、2018年3月の共同通信社の世論調査で、カジノを解禁することに反対が65.1%で、賛成の22.6%を大きく上回っております。朝日新聞が2018年7月15日に行った調査では、その声がより大きくなり、IR実施法案を今国会で成立させるべきかどうか尋ねたところ、反対が76%であり、賛成の17%と比べると大きな開きがありました。

その最大の理由は、「金儲けのために民間賭博を解禁すれば、それが子どもや若者の価値観に大きな影響を及ぼし、それが世界に冠たる安全な社会秩序を築いてきた日本人のモラルを崩壊させてしまう」と危惧する多くの国民の感覚だということです。

横浜市でもパブリックコメントの94%が否定的でありました。こうした状況を見ても、多くの国民はカジノを進めることを望んでおりません。カジノ事業関係者だけの声に耳を傾け、住民投票を拒否して国民を無視する形で事業を進めることは許されないことであります。

カジノによる社会的影響

カジノは古き良き日本文化を破壊する危険性が極めて大きく、また開港の地・横浜の守り育てた伝統にも相応しくないと考えます。

さらに、ギャンブル依存症、マネーロンダリング等の問題も治安悪化に直結することは言うまでもありません。
ギャンブル依存症はWHOで認知されている精神疾患であるにもかかわらず、日本においては調査や対策がほとんど行われてこなかったのが実情であり、その不安を拭い去ることは全くできておりません。

推進派の方々は、ギャンブル依存症対策を

「しっかりやる!」「しっかりやる!」と大合唱で仰られますが、アルコール・薬物をのぞいたギャンブルだけの厚生労働省依存症対策予算は、わずか1942万7000円でした。

また現状政府から示されたとされている規制案では、カジノに入る抑止力として、「入場料6000円」・「入場回数を連続する7日間で3回、連続28日間で10回」という規制がかけられるということですが、冷静に考えてみてください。

一回、数十万、数百万、数千万の勝負をしに来るカジノ顧客が6000円を気にするのかといえば、甚だ疑問です。

そしてそもそも月に10回もカジノに行くようであれば、その方は既に依存症が疑われても仕方がない状況であり、これが規制と呼ぶにはあまりにもお粗末です。

ギャンブル依存症に対する抑止効果は残念ながら殆どないと考えられ、これを世界最高水準のカジノ規制と言っているのであれば鼻で笑ってしまうレベルです。

横浜市が示した資料の中にギャンブル等依存症や治安悪化などへの対策が記載されているが、内容は。

「政府はこう言っています。」

「事業者はこんなこと言ってます。」

という中身が全くないものであり、準備を怠っているどころか泥棒に金庫番をさせるような記載を堂々と公表している稚拙さに恥ずかしさすら感じます。

横浜市 発表資料 IRの実現に向けて 13P

カジノによる治安等への懸念

私は、2019年8月に韓国でカジノへ関する視察に伺って参りました。

カンウォンランド high1 Resort 入口

韓国は自国民の立ち入りを禁止する外国人専用のカジノが殆どですが、一箇所だけ廃坑地域である江原(カンウォン)に自国民も入れるカジノがあります。

Open前にカジノに並ぶ利用者

2000年から自国民向けカジノを解禁した江原(カンウォン)では、治安や風紀がとても悪くなった事案などが報告されており、犯罪率が急増し、自殺率も全国平均の1.8倍になったとの報告があります。

また、市街には風俗店やサラ金・質屋などが立ち並び、たばこ、酒の摂取率が韓国内一番。身ぐるみ剥がされたギャンブル中毒症患者が野宿し、地域住民と諍いを起こすなど、あまりの風紀や治安の乱れに、小学校が隣の町に移転するほどの町になりはててしまい、15万人いた人口は、3.8万人にまで落ち込んだという大変残念な状況となっているということであります。

更に韓国のカジノ中毒症対策センターの所長が「ギャンブルもいくつかあるが、中毒症になる比率が一番多いのがカジノ。10人に7人という統計もある。」という内容を語っており、カジノ解禁がギャンブル依存症を増加させることを危惧いたします。

日本国民の利益ではなく既得権益者の利益を優先している現状

安倍首相にトランプ大統領 米カジノ大手の日本参入を要求(共同通信)

2018年10月11日の共同通信の記事によれば、調査報道で知られる米ニュースサイト「プロパブリカ」が、トランプ米大統領が2017年2月に南部フロリダ州で安倍晋三首相と会談した際、トランプ氏を支持する大口献金者が経営する米カジノ大手「ラスベガス・サンズ」に対し日本参入の免許を与えることを検討するよう強く求めたと報じました。

同サイトは「外国首脳との会談で、献金者の利益に直接結びつく話を持ち出すのは外交儀礼に反する」と問題視しておりますが、もしこれが本当なら大問題です。

私も公営競技のように日本国民に還元される仕組みではなく、何故海外にお金を流すような国益に繋がりにくい仕組みでの法案を無理矢理通そうとするのかとずっと疑問に思っていましたが、日本国民の利益ではなくアメリカ大統領支援者への利益誘導とカジノ事業者、建設会社などの少数既得権益者の利益を優先し、権力維持を図ろうとしているのだとすれば、それはとんでもない売国政策だと思います。

日本でカジノを利用したいと答えた外国人観光客はわずか”7%”

安倍首相がIRの意義を「世界中から観光客を集める滞在型観光が実現される」としたことも事実と異なり、
DBJ・JTBF  アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」によれば、カジノは統合型リゾート(IR)の中で利用してみたい施設としては、8項目の中で最も低い最下位にランクインをしております。

日本でカジノを利用してみたいと回答した人は、なんと全体の7%しかいないという衝撃な数値が明らかになっており、カジノによるインバウンド経済効果は限定であることが見込まれます。


対照的に、IR内で、ショッピングモールを利用してみたいと回答した人は46%。ホテルを利用してみたいと回答した人は43%。アミューズメント施設を利用してみたいと回答した人は40%。温泉施設などを利用してみたいと回答した人は37%であります。

カジノを利用してみたいと回答した7%の調査結果と比較して、誰にでもわかることは、訪日外国人観光客は日本においてIRに足を運ぶなら、カジノ以外で楽しみたいと思っているのが”明らか”であるということです。

カジノが日本の経済、国民の豊かさに資する根拠が乏しい

外国人観光客がアジアでカジノを楽しみたいのであれば、マカオやシンガポールなど有名なカジノ施設に足を運ぶのが殆どです。また韓国、ベトナム、フィリピン、カンボジアなどカジノ施設が多いレッドオーシャンのアジアに位置する日本で、インバウンド需要を狙うのは至難の技です。

そうした中、日本のカジノ市場には、米リゾート大手のラスベガス・サンズやMGMなどが強い関心を示しているとのことですが、これらの外資系企業が仮に日本のカジノ運営に参画した時に、外国人観光客で稼げず事業が成り立たないカジノが、日本人をターゲットにし、特に近隣住民を顧客の取り込みに走ることは経営的な観点からも容易に想像できます。

日本でカジノを開けば年間売上高は9000億円に達すると試算をしている調査がありますが、日本人がギャンブルで負けた多額の資金が外資系企業に流れる構図が出来上がったとしたらこれは一体どこの国の経済政策でしょうか?!

横浜市の経済波及効果に関する資料もカジノ事業を行いたい事業者から
「こんなに儲かりまっせ」と提供された都合のよいザクッとした数字のみが示されており、独自の調査などは行っていないことが伺えます。

横浜市 発表資料 IRの実現に向けて 12P

また約70%~80%程度が日本人顧客をターゲットにしていることが示されており、インバウンド消費は限定的であることを自らが認めているような資料です。

さらには雇用創出人数も都合の良い数値が書いてありますが、近隣商店への影響などは記載されておらず、プラスマイナスの比較が現時点ではわかりません。

真に日本の国益につなげる経営を考えるのであれば、自国民からお金を巻き上げるカジノによる統合型リゾートではなく、インバウンド需要をしっかりと酌み取った日本独自の色を打ち出した統合型リゾート、IR整備をしていくことが必要だという答えを導き出すのが普通の経営感覚だと思います。

ギャンブルによる負の経済効果が年間7兆円。

ちなみ韓国全体でのギャンブル産業の売上高が2014年19.8兆ウォン(約1兆9800億円)に対し、ソーシャルコストは、78兆ウォン(約7兆8000億円)に上ると発表されており、差し引き60兆ウォン(6兆円)の負の経済効果が発生しているとの研究結果が公表されております。

日本においても実際には、治安対策や依存症対策などに多額のコストがかかることが想定され、負の経済効果も計算に入れていない現状では、その妄想は絵に描いた餅に過ぎません。

綺麗ごとばかりを発信するのではなく、定量的なメリット、デメリットを検証し、それらの対策を踏まえたしっかりとした議論を行うべきです。

このように政府与党はIRの利点ばかりを強調し「ビジネスの起爆剤に」「地域振興、雇用創出」と聞こえの良い言葉ばかりを並べておりますが、具体的な経済効果に関しては日本の経済成長に資する根拠も乏しい状況です。

横浜にカジノはいらない

横浜市は今後、9月の市議会定例会に約3億円の補正予算案を提出し、同時にIR誘致を推進する「IR推進室」を新設し、2020年代後半の完成を目指す方針とされておりますが、私たちは、反対する多くの地元企業グループや市民団体等と連携しつつ、カジノに頼らない横浜市の観光・経済・街づくりなど持続的発展の道を示し、横浜市へのカジノを含むIR誘致を断念に追い込む決意です。

カジノは負けて、不幸になる人がいて、初めて成り立つビジネスモデルです。
新しい価値を生み出すわけでもなく、不幸な人を生み出した上での一部の人の成功は健全な成長戦略とは言えません。

記者会見にてカジノを含む統合型リゾートの横浜市への誘致表明に断固反対する声明を出す

私は今まで縷々述べたような観点から、カジノを経済対策や地方振興に利用することには、真っ向から反対をさせて頂きます。

また選挙戦でもカジノについては触れず議会でも白紙と説明してきた林市長が一転してカジノ誘致に舵を切るのであれば、私たちも市民にその信を問う準備を始めて参りたいと思います。

中谷 一馬 衆議院議員 立憲民主党
1983年生まれ。横浜市出身。IT企業「gumi」(現在、東証1部上場)創業参画を経て、2011年神奈川県議選(横浜市港北区)で民主党から出馬し初当選。2度目の国政選挑戦となった2017年10月の衆院選は立憲民主党推薦で神奈川7区から出馬、比例復活で初当選した。公式サイト


編集部より:この記事は衆議院議員、中谷一馬氏(立憲民主党、比例南関東)のブログ2019年8月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は中谷一馬オフィシャルブログをご覧ください。