6月5日がキューバの首都ハバナを寄港するクルーズ船の最後の旅となった。キューバがベネズエラのマドゥロ政権を軍事的に支えているというのが理由で、トランプ大統領はキューバへの制裁の一貫として米国からキューバへのクルーズ船の寄港を禁止したのだ。特に、キューバの観光業の多くを軍部が支配下に納めていることから、観光業を衰えさせることはキューバの政治体制を弱めることに繋がるというのがトランプ政権の考えである。
オバマ前大統領がキューバとの国交正常化を果たしたあと、米国からキューバへの観光客が増えていた。特に、クルーズ船でのキューバ訪問はすべてがパックされていて米国人に好まれた。
日本もキューバクルーズと題してキューバまで飛行機で行って、ハバナでクルーズ船に乗船してのカリブ海を満喫する旅も少しづつ人気が出ているという。
昨年キューバを訪れた観光客は470万人。そのうちの80万人が特にカナダと米国からのクルーズ船での訪問だったという。この観光収入は政府による種々サービス税、港湾税、国営ツアーエージェントなどから挙げる歳入は昨年だと3000万ユーロ(39億円)しかならなかったが、民間事業からもたらされた収入は30億ドル(3300億円)にまで上ったという。
(参照:elpais.com)
キューバに寄港しているクルーズ船は17社あった。トランプ大統領令によるクルーズ船のキューバ寄港を禁止した影響で、船会社は80万件の予約を取り消さねばならない羽目になったという。(参照:abc.es)
この影響で多大の損害を被っているのがレストランや50年代の米国車を運転して街を案内するタクシーである。公務員で溢れているキューバで彼らは個人事業主である。個人事業主は現在60万人いるという。
公務員は月給30ドルしか稼がないのに、タクシーだと1時間あたり30ドルから50ドルの収入になっていた。(参照:elespectador.com)
ところが、クルーズ船が寄港しなくなって個人事業主の収入は激減。市内で400台あまりあるというクラシックカーの中で、ハバナの大聖堂の近くに50年代の車を駐車して乗客を待っているエステバン・エストゥラダ氏は「普通だとここに駐車しているどの車もお客を乗せて観光案内をしていた」と取材に答え、数日このような止まった状態が続いているそうだ。彼は2014年末に普通のタクシーの運転をやめ、50年代の車でのタクシー業に切り換えたそうだ。
1954年型シボレーベル・エアーを運転するルイス・マヌエル・ペレス氏も売り上げが80%落ちたそうだ。
ジョエル・モンタン氏は2年前にタバコ工場をやめてオールドカーでタクシー業を始めた。「クルーズ船が入港していた時は観光客が多く国全体が潤っていた。今日、このプラザは閑散として非常に悲しい」と語った。そして、「トランプは我々のビジネスを駄目にさせてしまい、キューバの国も潰した。彼は狂人だ」「ベストの観光客はアメリカ人だ。品行良く、友好的だ」とも語った。
「アメリカ人はチップを多くくれる。だから我々みんな頑張っていた」と語ったのは、旧ハバナ地区でカフェテリアを経営しているエディー・バスルト氏だ。エディーは野菜と果物が豊富な健康メニューを始めていた。しかし、最後のクルーズ船の後は売上は60%落ちたそうだ。(参照:diariolibre.com)
ヘミングウェイが愛飲したラム酒のカクテル「ダイキリ(Daiquiri)」を彼が飲んでいたバル兼レストラン「フロリディタ(Floridita)」もいつもはどのテーブルも埋まっていたのが、今では空席が結構見つかるそうだ。ボーイの説明によると、50%売上が落ちているという。
ハバナ市内には100軒余りのレストランと300以上のカフェテリアが外人観光客を相手の商売をしているが、大半がなんとか営業している状態だという。
また、2016年にオバマ前大統領が訪問して家族と夕食をとったレストラン「サン・クリストーバル(San Cristóbal)」も、取材で訪れた6月13日も2割程度埋まっているだけだったという。
今年のサトウキビの収穫はこの120年で130万トンという最悪の収穫、医師の派遣サービスではブラジルでボルソナロ大統領の誕生で、この派遣が中止となって4億ドル(440億円)の減収。それに加えて、米国からのクルーズ船の寄港中止でキューバ経済の後退を促す要因ばかりとなっている。そこから脱出する為のキューバ政府の「Bプラン」は準備されていないようだ。
これまで旧ソ連に寄生虫のごとく依存し、その後チャベス前大統領のベネズエラに依存を開始して現在まで継続。利潤を追求する民間企業の育成を怠り、公務員が多すぎるキューバだ。観光業の発展が阻害されている現在、今後の経済の回復は容易ではない。
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家