日本共産党は生き残れるか

加藤 成一

日本共産党の党勢衰退

日本共産党の党勢が衰退している。2010年には41万人の党員は2017年には30万人に減少した(党大会公表)。党員の平均年齢も2014年には57.2歳まで高齢化した。機関紙「しんぶん赤旗」も1980年には355万部であったが、2017年には113万部にまで減少した(毎日新聞)。

日本記者クラブHP(2017年10月衆院選党首討論会)より

これらは国政選挙の得票数や党財政に影響する。1996年総選挙の比例726万票から2017年総選挙の比例440万票に、1998年参議院選の比例819万票から今回の参議院選の比例448万票に、それぞれ得票数が大幅に減少している。

党勢衰退の歴史的社会的背景

党勢衰退の歴史的社会的背景は、日本をはじめ先進資本主義諸国における資本主義の発達・高度化が最大の原因である。

すなわち、資本主義の発達・高度化により、マルクスの主著「資本論」やエンゲルスとの共著「共産党宣言」で予言した労働者階級の窮乏化が起こらなかった。むしろ、先進資本主義国では労働者の名目賃金が不断に上昇、生活水準が向上し、社会保障制度が整備されたこと、不断の技術革新により専門的・技術的就労者(中間層)が増え階級闘争意識が希薄になったこと、先進国では暴力による社会主義革命ではなく、選挙による政権交代のみを認める議会制民主主義制度が定着していること…などが指摘できる。

このように、資本主義の発達・高度化による生活水準の向上により、もはや労働者階級は、「革命においては鉄鎖以外に失うべき何物も持たない」(マルクス・エンゲルス著「共産党宣言」)とか「賃金奴隷である」(レーニン著「国家と革命」)などとは到底言えないことは明らかである。

日本共産党が温存する人権弾圧の「プロレタリアート独裁」

このような党勢衰退の歴史的社会的背景を考えると、労働者階級を含む国民の大多数が、「自由と民主主義」を享受する現存の資本主義体制を打倒し、「プロレタリアート独裁」を不可欠とする「社会主義・共産主義社会」の実現を待望する社会的必然性はない。それにもかかわらず、日本共産党は、いまだに「科学的社会主義」(マルクス・レーニン主義)に基づき「社会主義・共産主義社会」の実現を目指すことを宣言している(党規約2条。党綱領五=15)。

その方法として、共産党は「多数者革命論」(党綱領四=13。上田耕一郎著「現代日本と社会主義への道」)を掲げるが、他方において「プロレタリアート独裁」(党綱領四=16「社会主義をめざす権力」)を放棄せずに温存している。不破哲三氏(共産党前議長)も「社会主義日本では労働者階級の権力、即ちプロレタリアート独裁が樹立されねばならない」(不破哲三著「人民的議会主義」)と断言している。

「プロレタリアート独裁」は、日本共産党の指導原理である科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)の核心であり、資本主義から共産主義への過渡期の国家がプロレタリアート独裁である(マルクス著「ゴーダ綱領批判」)。そこでは、反革命勢力や反革命分子に対する法律によらない暴力による容赦のない弾圧殺戮が正当化されるのである(レーニン著「国家と革命」、スターリン著「レーニン主義の基礎」)。

このような「プロレタリアート独裁」が日本など先進資本主義諸国における「自由民主主義体制」と矛盾し根本的に対立することは明白であり、今や時代錯誤と言っても過言ではない。

西欧共産党の「プロレタリアート独裁」の放棄と消滅

このため、「プロレタリアート独裁」を不可欠とする共産主義イデオロギー(マルクス・レーニン主義)を掲げていた西欧先進資本主義諸国の多くの共産党は衰退した。「プロレタリアート独裁」を放棄し、イタリア共産党は解党して左翼民主党になり、フランス共産党、スウエーデン共産党、イギリス共産党も「プロレタリアート独裁」を放棄した。スペイン共産党は弱体化した。

オランダ共産党やフィンランド共産党は自主的に解散した。旧西ドイツ共産党は1956年に非合法化され、アメリカ共産党は1954年の共産主義者取締法により非合法化された。

これらの西欧先進諸国の共産党は、たとえ存続したとしても、著しく衰退し、その政治的影響力はいずれも極めて微々たるものとなっている。

日本共産党は生き残れるか

以上に述べた通り、共産党の衰退は何も日本共産党だけではないことが明らかである。これらの共産党の共通点はいずれも高度に発達した先進資本主義諸国の共産党であることである。したがって、前述した理由により、今後も資本主義が発達し高度化すればするほど、共産党の衰退は避けられず、これは歴史的必然の法則である。日本共産党もこの法則から免れ得ないのであり、単なる「党名の変更」で済む問題ではない。

共産党がこの法則の適用を緩和するためには、理念として、何よりも「自由と民主主義」に根本的に矛盾する「プロレタリアート独裁」の概念を早急に放棄すること、暴力革命の手段としての「敵の出方論」を早急に放棄すること、党最高幹部への権力集中と独裁をもたらす「民主集中制」を早急に放棄することである。

そして、具体的政策としては、これまでの、いわゆる「反日政策」を改め、韓国大法院判決を含め、徴用工問題に関して韓国側の主張を全面的に支持容認するのではなく、韓国に対しても遠慮をせずに日本の立場から主張すべき点は堂々と主張すること、さらには、共産党はかつて池田内閣の所得倍増計画にも反対したが、日本共産党といえども、日本経済の成長発展を重視すべきだ。

国土の構造を変え、21世紀日本経済の起爆剤となり得るリニア中央新幹線建設への絶対反対の姿勢を早急に改めること、2020年東京オリンピック、2025年関西万博など、今後は日本経済の成長発展に有益な国家的プロジェクトへの反対の姿勢を改めること(当初共産党は上記いずれにも反対していた)、そして、何よりも、安全保障の根幹である国の独立と平和、国民の生命と財産を守るための防衛力の保持を認め、「自衛隊違憲」の立場を早急に改めること、などが共産党に求められる。

要するに「日本の国益を断固として守り抜く日本共産党」であればこそ、日本国民は支持し、今後も生き残るに違いないのである。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。