日韓の対立が、深まっている。このような深刻な事態になってしまったことを、どうとらえたらいいのか。
発端は元徴用工訴訟である。第二次世界大戦当時に徴用された韓国人に対して、損害賠償を支払えというものだ。
そもそも1965年、日本は韓国との国交正常化の際に請求権協定を結んだ。そこで請求権問題は、「完全かつ最終的に解決された」と明記している。
99年には、小渕恵三首相は金大中大統領と会談し、「過去の事はここで終止符を打ち、新しい日韓関係を作ろう」と表明。2005年には、盧武鉉政権は請求権協定には徴用工問題も含まれ、賠償を含めた責任は韓国政府が持つべきとの政府見解をまとめている。このときの大統領首席秘書官が、いまの文大統領だ。
ところが、昨年、韓国大法院は日本製鉄や三菱重工業に賠償を命じる判決を確定させたのだ。対して日本は、韓国向けの半導体や液晶材料について、輸出規制に踏み切る。さらに、日本政府は韓国を「ホワイト国」の対象国から除くと発表したのだ。「ホワイト国」とは、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取っている国である。
菅義偉官房長官は、「徴用工問題に対する報復ではない」としている。たが、理由はどうあれ、韓国にとって経済的な打撃であることは間違いない。
そして、事態は悪化する。8月22日、韓国は、日韓軍事情報包括保護協定、いわゆるGSOMIAを破棄すると発表したのだ。そして日本は8月28日、韓国を「ホワイト国」から実際に除外する。翌29日、文在寅大統領は、「日韓の国交断絶」まで口にしている。
いったいなぜ、こうもこじれてしまったのか。そもそも、背景には韓国の経済問題がある。経済状況が悪化し、文政権の支持率は低くなる。窮地に陥った政権がとる常道は、前政権の行ったことをすべて否定することだ。文政権の前は、朴槿恵政権だ。彼女が日本との間で行った「慰安婦合意」を、文大統領は否定したのだ。
当然ではあるが、それで経済がよくなるわけではないから、文政権の支持率は伸びない。焦って次に「徴用工問題」を持ち出し、韓国国民の被害者感情を煽った。支持率アップを狙ったのだ。
韓国の一連の政策の背景にあるのは、あくまでも「経済問題」だ。しかし、日本はそれに対して、「輸出規制」「ホワイト国除外」と、その「経済」を悪化させる対抗策に出てしまった。
日本は、韓国より早く経済復興した。日本のほうが豊かであり、蓄積もある。本来ならば「兄貴分」のように、韓国に経済政策を提案するくらいの大きな気持ちで、接しなければならなかったと僕は思うのだ。
かつての自民党には、党内に「主流」「反主流」があり、こうした政策をとったとき、いさめる声が必ず内部から出た。いまの自民党からはまったく、そうした声が出てこない。僕はたいへん危惧している。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2019年9月7日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。