IAEA次期事務局長は誰に?

長谷川 良

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は、9日から定例理事会(理事国35カ国)を、16日から閣僚、高官らが参加する第63回年次総会(加盟国171カ国)をそれぞれ開催する。核エネルギーの平和利用促進を掲げるIAEAを取り巻く状況は厳しい。13年間の核交渉の末、2015年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)が締結がされたが、米国がイランの核合意から離脱後、イランが合意内容の履行を拒否し、合意違反を繰り返してきた。

一方、北朝鮮の非核化では依然、進展が見られない。同時に、天野之弥事務局長が7月18日、病死したことを受け、IAEAは空白となった次期事務局長の選出が急務となっている。ここでは、次期事務局長選について報告する。

▲ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)=IAEAの公式サイトから

IAEA広報部によると、理事会議長の Leena Al-Hadid大使(ヨルダン)は6日、立候補届け出締め切り日の5日までに4カ国から4人の正式な立候補届けがあったことを明らかにした。

1人は故天野事務局長の下でコーディネーターを務めたルーマニア出身のコイルネル・フェルータ事務局長代行、アルゼンチンのラファエル・グロッシ駐ウィーン国際機関代表部大使、ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長のラッシーナ・ゼルボ氏(ブルキナファソ)、そして唯一の女性候補者、IAEA第62回年次総会議長を務めたスロバキアのマルタ・ツァコヴァ(Marta Ziakova)女史の4人だ。

欧州から2人、南米1人、アフリカから1人の3大陸から候補者が擁立されたわけだ。IAEA関係者によると、グロッシ 氏とフェルータ氏の2人が有力候補と見なされている。投票は理事会で行われ、総会が承認する形で行われる。当選のためには有効投票に3分の2を獲得しなければならない。該当する候補者が出ない場合、新たに候補者を立て、投票を繰返すことになる。

ちなみに、天野氏は投票では第1位だったが、当選するために必要な3分の2のハードルを越えるのが難しく、最終的には1カ国が投票を棄権したことで辛うじて有効投票の3分の2を越え、日本人初のIAEA事務局長に当選した経緯がある。

同じように、今回も最初の投票で1人ないしは2人の候補者が脱落し、上位2人の決戦投票となる可能性が高いと予想される。IAEA広報部によると、次期事務局長は10月には決定し、遅くとも来年1月1日前には就任できる運びで準備しているという(「『反対から棄権に回った国』を探せ」2011年11月14日参考)。

参考までに、IAEA事務局長(任期4年)は故天野氏が第5代目だった。天野氏は2009年に初めて当選し、2013年、17年と3選したが、3期目の途中7月18日に亡くなった。4代目はエジプト出身のモハメド・エルバラダイ氏が1997年から2009年まで任期3期を務め、2005年にはIAEAと共にノーベル平和賞を受賞した。スウェーデン外相を務めたハンス・ブリクス氏が1981年から97年の4期を務めた。同じくスウェーデンからシグバード・エクランド氏61年から81年、そして初代事務局長は米国出身のスターリング・コール氏が57年から61年まで短期間務めた。

IAEAは核エネルギーを扱う純粋な技術機関だが、加盟国の様々な政治的思惑を無視して運営できない点では、他の国連専門機関と同じだ。亡くなった天野氏はイランの核合意問題では米国のトランプ政権から嫌われる立場だった。

「イランは核合意を順守している」と理事会で報告する度に、米国からバッシングを受けてきた天野氏はストレスを感じていただろう。誰が次期事務局長に選出されるとしても、イランの核問題が解決されない限り、さまざまな大国からの政治的干渉を避けることはできないだろう(「トランプ氏が“天野氏叩き”を始めた」2018年5月26日参考)。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月9日の記事に一部加筆。