私は3つの病院に入院したことがあるが、そのうち2つの病院では、箸スプーンコップを持ち込むよう指示された。
病院給食においては、盛り付けられた椀や皿は食洗機で自動洗浄されて殺菌されるのに、箸スプーンコップは、患者が持ち込んだものを使用させ、洗浄を患者にやらせる病院が多い。
これがどれだけ不便かは、入院してみないとわからない。
手に点滴がつながっていたり、手術後にフラフラの状態で、箸スプーンコップを洗浄することなど困難で、結局、洗わずにそのまま使い回さざるをえないのだ。肢体不自由で、身動き取れない患者もいるではないか。
病院の管理栄養士は、食品や調理には関心があっても、患者が実際にどうやって食事をしているのかには無関心である。病棟に来て話を聞けば、この不満はすぐに聞き取れるはずだ。
病棟管理に責任を持つ看護師たちも、手が不自由な患者に対しては、個別の判断で洗ってくれたりすることもあるのだが、システムそのものに疑問をもったり変更したりすることはない。
私は何度も、「食洗機で皿は洗ってるのに、箸スプーンコップを食洗機で洗ってくれないのはどうしてですか?」と病院職員に聞いてみたが、困った顔をするばかりで、誰も答えない。
「箸スプーンコップを患者管理にしているのは不便であり不衛生だ、なんとかしてくれ」と病棟の投書箱に記名入りの投書をしたり、退院後に病院苦情受付に手紙を書いたりもしたのだが、返事をもらったこともない。
この問題はないことになっているらしい。
ヤフー知恵袋を読むと、「直接口につけるものは、衛生上の問題で持ち込みになっている」と知ったふうなことを書く人もいるのだが、衛生上の問題があるのなら、なぜフォークは食事についてくるのだろうか。入院患者は、椀に口をつけずに米飯や味噌汁や麺類を食べるのだろうか。
箸スプーンコップが持ち込みでない病院もある。たとえば、東大病院は箸スプーンコップの持ち込みは強制ではない。持ち込みでも支給品でもどちらでもいいのである。
食事には、箸・スプーン・湯呑みがついています。ご愛用のものを使いたい場合は、持ち込みください。
私は、外来が昼休みになったという理由で、病院待合室から、雨の中の路上に追い出されたことがある。周辺には休める場所はどこにもない。私は2時間ばかり、雨の路上で立ち尽くした。管理上の問題で、休み時間の待合室は無人にしなくてはいけないそうである。
医療業界には限らないのだが。近頃の事業所は、顧客満足度(CS)向上には熱心で、特定職員を非難する投書があると、当人が呼び出されて改善を求められたりするのだが、個人の責任ではない苦情は無視してしまう。このために、職員は、自分が非難されそうなことにはひどく注意を払うのに、システムの欠陥は放置するという行動をするようになっている。
井上 晃宏(医師)