ナイツ塙さんの「言い訳」

ナイツ塙宣之さん著「言い訳」。
副題:関東芸人はなぜM1で勝てないのか。

M1でウケなかったという塙さんが言い訳をする、という体の本だが、そうではない、あふれる漫才愛をこれでもかと語る、漫才ファンの必読書。
ありがたくも、おもしろい。

つい先日ABCのお笑い番組で、ナイツは吉本興業をいじり「テープ回してるんじゃねえか」のボケに、土屋さんが「もうそんなこと誰も言ってねえよ」とツッコんだ。
関東芸人からの、ネタとして終わったよね宣言をいただいたと思いました。
感謝しつつ読みました。

M1出場者たちを次々と評論していきます。
霜降り明星、和牛、ジャルジャル、ミキ、かまいたち、ゆにばーす、スーパーマラドーナ、ギャロップ、トム・ブラウン、マヂカルラブリー、カミナリ。
フットボールアワー、笑い飯、ブラックマヨネーズ、ノンスタイル、アンタッチャブル、サンドウィッチマン、チュートリアル、南海キャンディーズ、オードリー、中川家、スリムクラブ、U字工事、とろサーモン、キングコング、ますだおかだ、おぎやはぎ。
的確です。

ボケとツッコミ。関西と関東。4分、15分、30分ネタ。しゃべくりとコント。
なるほどという分析です。
M1優勝者で吉本所属じゃないのは3組(ますだおかだ、アンタッチャブル、サンドウィッチマン)。
でもそのアンタッチャブルとサンドウィッチマンは圧倒的でした。

M1第一期10回中の優勝者は、しゃべくり漫才が6回、コント漫才が4回で、フットボールアワー、アンタッチャブル、サンドウィッチマン、パンクブーブー。
コントでフット以外の3組が関東で、関東系で優勝したのはこの3組のみ。
つまり関東のしゃべくり漫才は勝ててないということ。なるほど。

そこでナイツが勝てなかったことを自己分析するのですが、ぼくはM1という短距離走とナイツの漫才は別ジャンルだと思います。
しかもナイツはテレビよりライブ。
野球や芸能などの決してオンエアできないマニアックなネタをボソボソやる。
のりお・よしお師匠に似ています。

昨年のM1決勝で塙さんが審査員を務めた。
アドリブのコメントで初めてM1でウケた、というのがエピローグ。
ぼくは会場で見ていました。今田耕司さんの瞬発力によるツッコミがあったから。
つまりあれも漫才だった。
審査員も、落語家やコント師と異なり、漫才師のコメントにはリアリティーがある。

M1は予選や準決勝も見ますが、決勝の現場は出場者も審査員もピリピリする戦場。
短距離走漫才という特殊ジャンルとはいえ、4000組を越えるアーティストたちの頂上決戦。
さらなる発展を祈ります。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。