韓国「開天節」ウィーン祝賀会風景

朝から小雨だった。それが夜まで続いた。2日午後6時(現地時間)、ウィーン証券取引所ビル2階で韓国の「開天節」(建国記念日)の祝賀会が外交官、国連関係者、財界人らを招いて行われた。当方も久しぶりに出席した。

▲シン大使夫妻とフィッシャー前大統領(2019年10月2日、「開天節」祝賀会場で)

▲韓国の開天節に招かれたゲストたち(2019年10月2日、「開天節」祝賀会場で)

「久しぶり」というのは、招待状は毎年届いていたが、夜に開催されるレセプションや会議に参加することが億劫なこともあって、ここ数年欠席してきたからだ。今回参加したのは日韓関係が「史上最悪」といわれている時だけに、「何かハプニングが起きるかもしれない」といったジャーナリストとしての臭覚が働いたからだ。

2階の祝賀会入口には、今年7月、就任したばかりのシン大使(SHIN Chae Hyun)夫妻らがゲストを迎えていた。6時半ごろになると会場はゲストで溢れた。当方は韓国大使館関係者に、「日本大使館からゲストは来たのか」と尋ねたが、その時点では誰も来ていなかった。

韓国大使館が北朝鮮大使館関係者(金光燮大使)を招待したかもしれないと考えたが、北外交官の姿はなかった。その代り、北大使館と密接な関係がある人々が結構参加していた。「北朝鮮・オーストリア友好協会」のエデュアルト・クナップ会長の姿があった。シン大使に挨拶するとき、何か小声で語りかけていた。ひょっとしたら、金光燮北大使からの祝賀メッセージを伝えたのかもしれない。シン大使はクナップ会長の話に耳を傾けていただけだ。

当方は早速、クナップ会長に挨拶し、「ここは南の祝賀会ですよ」と揶揄うと、「僕はこれまでも何度も韓国主催の祝賀会に顔を見せているよ」と弁明。そこで「文在寅大統領時代になって、南北融和政策が実行されたお陰で南北統一の可能性は現実味を帯びて来たのではないですか」と聞くと、「まだ多くの時間がかかるよ」と答えて、当方の質問を避けるためにその場を離れた。

そしてハインツ・フィッシャー前オーストリア大統領(任期2004~16年)が登場した。今回は夫人を随伴せず1人で会場に来た。フィッシャー氏は「北・オーストリア友好協会」に一時期所属していた“親北政治家”として有名だ。大統領になって少し距離を置いていたが、その政治スタンスは変わらない。フィッシャー氏が大統領時代、金大使と国際シンポジウムで話していたのを何度も目撃した。北朝鮮はウィーンで社会党(現社会民主党)との人脈を構築していったが、その頂点に立つ人物がフィッシャー前大統領だ。ウィーンが欧州の工作拠点となったのもフィッシャー氏らの支援があったからだ。

ゲストで会場が一杯となり、祝賀会が始まった。2人の歌手が両国の国歌を独唱。その後、会場中央の舞台に立ってシン大使が挨拶した。流ちょうな英語でオーストリアと韓国両国関係が発展し、両国間の貿易総額は30億ドルを超え、文化交流の拡大してきたと指摘し、「両国関係が今後も深まっていくことを願ってワインで乾杯」となった。

ワイン・グラスが運ばれ、大使もグラスに口をつけ、ゲストの来訪に感謝して舞台から降りようとした時だ。何かに躓いたのか大使はグラスを絨毯に落としてしまった。本人も驚いたが、ゲストもビックリ。自分でグラスを拾い上げると、「もう酔いが回ったのかな」と冗談を言うと、会場のゲストにも笑いが広がった。(「今回の開天日に何かが起こるかもしれない」と上述したが、新任大使が祝賀挨拶後、ワイン・グラスを床に落としたことがそのハプニングだったのかもしれない?)。

会場には包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のラッシーナ・ゼルボ事務局長やウィーン国連広報部のマーチン・ネサーキ部長(Martin Nesirky)の姿が見られた。珍しいところでは、米国大使館から3人のシークレットサービスが米国大使の身辺警備に当たっていたことだ。

当方は7時過ぎた頃、会場を後にしたが、その前に韓国大使館の知人に念のため「日本大使館から外交官は参加しなかったのか」と聞くと、「いや、来訪されました」という。当方は驚いた。彼は参加リストを捲りながら、「引原毅大使です」という。在ウィーン国際機関日本政府代表部の北野充全権大使の後継者で、今年9月に就任した引原毅大使だ。

ウィーンの開天節祝賀会には北側から直接の参加はなかったが、「北・オーストリア友好協会」会長、親北政治家の前大統領らが姿を見せ、北朝鮮のプレゼンスを誇示していた一方、日韓両国関係が険悪な時、国際機関担当の日本代表部全権大使が韓国の建国記念日に顔を出していたわけだ。前者は南北融和政策の海外版であり、後者は近い将来の日韓対話の再開を予示すると一方的に受け取って、当方は会場を後にした。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月4日の記事に一部加筆。