韓国のギャンブル依存症対策:日本と大違いの点とは?

田中 紀子

先日、韓国のギャンブル事情についてアゴラに書きましたが(韓国のギャンブル依存症の現状:カジノよりも深刻なオンラインの闇)、本日は、韓国のギャンブル依存症対策について書きたいと思います。

私たちは、「Korea Center on Gambling Problem」という、ギャンブル依存症対策の中心的役割を担う機関を視察させて頂きました。(「韓国ギャンブル問題管理センター」とでも訳すのでしょうか?)今から4年ほど前にも視察させて頂いていたのですが、この度の視察で更に色々分かって参りました。

foursquareより:編集部

ここは政府が運営する機関で、それまでバラバラにとられていたギャンブル依存症対策を、中央集権的にまとめる形で、2013年に設立されました。依存症対策を直営している形になっています。あとは17カ所の民間機関、45カ所の専門医療機関と連携しているとのことでした。

ただこの中央集権的機関が直営するという機能はいまいちだと思いますね。
そうすると結局、プログラムが画一的になったり、政権にすり寄る人間が既得権を獲得したり、ギャンブル産業との利益相反問題や、ギャンブル産業への忖度が働くようになる懸念があると思います。

日本は厚生労働省を中心として依存症対策を行っている訳ですが、私が現場活動をしてきてわかったことは、なんせ日本は「とにかくどんな田舎に行っても必ずパチンコ屋さんはある!」という特殊な環境にあるので、こういう「どこかで集中して依存症対策やってます」みたいなことでは、対策は行き届かないことを実感しています。

現在は精神保健福祉センターがその役割を果たしながらやっている訳ですが、そもそも都道府県に1か所~3か所しかないので、そこに通える人なんぞごくわずかなんですね。

だって考えても見て下さい。
依存症でも8050問題なんかざらにありますけど、例えば青森県なら竜飛岬に住む80歳のギャンブラーの親がですよ、
青森市内の精神保健センターに相談に行き、そこから家族教室に通う…なんてことができると思います?絶対にできないですよね。

また日本には離島も多く、そして例えば沖永良部島だってパチンコ屋さんはありますが、沖永良部島に支援機関も自助グループもありません。

そしてセンターが依存症対策をやると非常にコストパフォーマンスが悪いです。
建物を作り、人件費をさき、しかも平日9時から17時までしか対応できない。

3年に一度の人事異動で、エキスパートが育たないため、研修ばかりやらなくてはならない。ポスター1枚作るにも全て入札制で、素人が作るので出来不出来の落差が大きく、しかも高くつく。

これが日本の現実です。

それに比べたら、自助グループや家族会はお金もかからず、何十年も通い続けているエキスパートがいるわけですよ。
だから日本はもっと自助グループや家族会こそ育てて行くべきだ!と思っています。
日本中どこでも、網の目を貼りめぐらしたように、社会資源がある!っていうのが理想です。

それでも、「韓国の取り組みが凄い」と思ったのは、韓国では本年度年間20億円もの予算を割いてギャンブル依存症対策を行っており、アルコール、薬物、ギャンブルをあわせても現在でもたった8.1億(しかも全て使いきってくれない!)しかない日本とは大違いです。

この20億ですら「南北統一対策のためそちらに予算が流れ、ギャンブル依存症対策費は10億円ぐらい減らされた」とのことで、驚いてしまいました。

また、韓国では「依存症対策を徹底した研究に基づく科学的な対策」とうたっていて、日本の様に「カジノの入場料はディズニーランドと同じくらいでいいんじゃない!?」「カジノの入場制限は週3回。月28回まで。何故なら国内旅行は2泊3日が多いからね!」なんて、カジノの素人が遊び感覚で適当に依存症対策を決めちゃっているわけではない!というところは非常に羨ましく思いました。

日本の内閣官房の「依存症対策よく分かんない人か、ギャンブル産業から金もらってる人を委員に入れる作戦」、これ心から何とかして欲しいですね。どこの圧力だか分かんないですけど(ホントは大体分かるけど…)

日本の官僚には、日本国民を依存症から守るためにも、ズブズブの政治家に対してもうちょっと頑張って欲しいですわホント。ズブズブじゃない、魂のある政治家の先生にも、是非とも大同団結して頑張って頂きたい所です。

さて、この韓国が謳う「徹底した研究」によると、韓国内のギャンブルによる社会問題の経済負担は、なんと!78兆ウオンにも及ぶそうです。日本円にするとおよそ7.8兆円!

凄い金額ですが、日本だってギャンブルによる自殺や犯罪、貧困、一家離散なんて社会問題は枚挙にいとまがないですからね。苦しんでいる家族や、税金による社会負担費などは、ものすごい金額になるはずですよ。

しかも、この「ギャンブルによる社会問題の経済負担」なんて、あっちゃこっちゃで調査の必要性が訴えられているのに、政府は「都合の悪い数字は出してたまるか!」とばかりに、ぜ~~~~~~~~~ったいにやろうとしないですからね。
本当に日本のギャンブル依存症者と家族は、政治に見捨てられていますよ。

しかし「今の日本の政治には絶望感しかない…」と、最近は政治に嫌気がさしていましたが、韓国のセンターの方に、「政治活動が大事!私もうんざりするけど政治家と仲良くなりなさい!」とはっぱをかけて頂きました。
確かに…嫌気がさして何もやらないと、ギャンブル推進派の一部大金持ちとその既得権者とそこに群がる政治家さんらが喜ぶだけよね…と思い、嫌気がささないように、こっちも仲間を増やし、もっと大同団結しないといけないと思いました。

改めて法案の策定まで持っていったあのエネルギーで、もう一度、頑張ってみよう!と自分を鼓舞して帰宅の途につきました。ホント頑張ろう…


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト