依存症学会でまさかの優秀論文賞!画期的な研究「LOST」とは?

田中 紀子

10月4~6日の3日間、札幌で「日本アルコール・アディクション医学会」が開催されたのですが、この学会はその名の通り、依存症問題に関わる医師や研究者、支援者の方々が研究発表する学会です。最近はわけのわからない胡散臭い学会もある中、歴史も古く依存症に関しては最も権威ある学会ではないでしょうか。

で、多くの先生方がここで研究発表をし、その前後で同学会が発行する「日本アルコール・薬物医学会雑誌」に論文を発表されるんですね。

昨年私たちもこの学会で発表し、さらに論文も書いたのですが、なんとなんとなななんとそれが、第25回日本アルコール・アディクション医学会 優秀論文賞に選ばれたのです!

ちょっとちょっとすんごい快挙!だって今年優秀論文賞に選ばれたのたった1本ですよ!
私、表彰状なんぞ頂いたのは、入社したデパートで「新入社員NO1 賞」を頂いて以来です。

ちなみに選ばれたのは、

論文名:病的ギャンブラーとギャンブル愛好家とを峻別するものは何か:LINEアプリ・セルフスクリーニングテストを用いた病的ギャンブラーの臨床的特徴に関する研究

著者名:田中紀子,松本俊彦,森田展彰,木村智和(機関誌 第53巻6号掲載)

いやぁ~、このハンパなヤンキー上がりで短大のしかも国文科しか卒業していない私がこのような賞を受賞できるなんて!
ホントこれはご指導して下さった、松本俊彦先生のお陰です!有難い限りです。

で、受賞のお知らせを頂き、慌てて札幌に馳せ参じた訳ですが、表彰式では、撰者のお一人でいらした慈恵医大の精神医学講座教授の宮田先生が表彰状を授与して下さり、「昨年度の論文でずば抜けてよかった!」とおっしゃって下さり、さらにめちゃくちゃ嬉しかったです。

この私、感情の発露が抑えられないタイプなので、ピースサインで飛び上がって喜びを表現した所で、

再び、宮田先生が「いやぁ、表彰式でこれだけ盛り上がったのは初めて!贈る側の冥利に尽きます」とおっしゃられ会場は大爆笑でした。

本当にこれは嬉しい受賞!関わってくださった全ての方々に御礼申し上げます。
有難うございました。

ここにくるまで、何度か先生方の研究のお手伝いをさせて頂きましたが、私の、指導教官でもある松本俊彦先生は常々、「田中さん、学会発表だけではだめです。論文で発表しないと研究データが生かされない」ということをおっしゃっておられます。

最初の頃私は、学会なんか行ってもその意味が良く分かりませんでしたが、段々「なるほどな~、学会なんて一瞬の話で、どんなにデータを出してもそれが勝手に広まったりしないんだなぁ」とか「論文には色んなお作法があって、それをちゃんと通過して、初めてデータとして世に認められるんだなぁ」という研究の初歩的なことが分かって来ました。

ついでに言えば、見ているうちに「学会で発表されるものには、単なるアンケート調査の様なものもあれば、比較対照群を設定して、解析をかけて結果を分析するようなものがあるんだな~」ということも分かってきたんですよね。

で、学会に出始めたのが今から8年位前からだったと思いますが、段々自分も研究やりたいな~と思うようになって、今から6~7年前くらいに、研究者の仲間と2人で千葉大の統計学の大学院生にレクチャーを受けに通ったことがあったんですよね。

もちろん私に細かい計算なんかできないですけど、その時「なるほど~こうやって比較検討するんだな」とか、「この分析方法を使うとこういうことが分かるんだなぁ」なんてことがわかってきたんですよね。

そして「研究を出したい!」と思いつつも、日頃の忙しさに押しつぶされたり、頭がついていかなくて、結局、先生方のお手伝いの身に甘んじておりました。

ところが2017年にNTTデータさんと「もっと早くギャンブル依存症の介入ができたらいいのに」という思いが一致し、「簡単なスクリーニングテストができる介入ツールを作ろう!」ということになり現在も無料配信している、LINEアプリ「ギャンブル依存症問題を考える会LINEアプリ」が作られることになったんです。

そして「じゃあその前にスクリーニングテストを作るための研究をしなちゃ!」ってことになり、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生と、筑波大学の森田展彰先生にご指導をお願いしたところ、快くお引き受けいただくことができ、この研究が生まれたのです。

それで、これまで世界的に使われてきたギャンブルのスクリーニングテストには「SOGS」っていうものがあるのですが、これは設問が多すぎて面倒くさい!のと何よりも比較対照群が、「ギャンブル依存症者 VS 一般人」なので、診断が広くでちゃう!っていうことが問題視されていたんです。

そこで我々は「ギャンブル依存症者 VS ギャンブル愛好家」という比較対照群で研究したんです。
まずはSOGSとオリジナルの質問紙で調査をしたんですけど、これでめっちゃくちゃ面白い結果がでたんですね。

この「ギャンブル依存症者 VS ギャンブル愛好家」の調査データが出てきた時、私もそうですけど、松本先生も森田先生も「すごい!面白い!」とおっしゃって下さりちょっとワクワクしました。

この結果から優位さが認められた9項目について、質問の回答をギャンブル依存症の特徴が分かりやすくなるように、2択に置き換えて多変量解析をかけ、その結果を見てまた回答を修正して、今度は単変量、多変量解析をかけて見たら、「お~!ギャンブラーと愛好家を分ける重要な4項目の質問ってこれだったんだ!」ってものがわかったんですね!どうですか、めっちゃ画期的だと思いませんか?

そして、このたった4つの質問で分かる超簡単スクリーニングテストを、我々はキーワードの頭文字をとって「LOST」と名付けました。沢山のものを失ってしまうギャンブル依存症者にぴったりのネーミングじゃないですか!?
これ、当会英語部の仲間がつけてくれたんですけど、最高のセンスだと思ってます。

その4つの質問「LOST」とはこれです!
じゃじゃ~ん!

Limitless
ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない。

Once Again
ギャンブルに勝ったときに、『次のギャンブルに使おう』と考える

Secret
ギャンブルをしたことを誰かに隠す

Take Money Back
ギャンブルに負けたときに、すぐに取り返したいと思う

1年以内のギャンブル経験で、この4つの質問に2つ以上「はい」と答えたら、
あなたも立派なギャンブル依存症!…かもしれません。
その場合は、専門医かギャンブル依存症自助グループGAに繋がってみてくださいね。

LOSTについて詳しくは、こちらのギャンブル依存症ポータルサイト「カケルとキョーコ」にありますので、
是非、ご覧下さい。

ギャンブル依存症セルフチェック 合言葉はLOST

もうこんな受賞は2度とないだろう…としみじみしようかと思いましたが、それでは松本先生はじめ、ご指導して下さった先生方、関わって下さり協力して下さった皆さんに申し訳ない!と、気がつき、ネガティブな言葉を発するのは止めました。

むしろ一発屋にならないことこそが、真のご恩返しである!と思うので、あえて私はこう言います。
「よっしゃ~次は世界を目指すぞ~。雑誌「Nature」に論文掲載させてみせる!」

お~!ビッグマウス万歳~、言霊を信じて!
皆さん、益々応援して下さいね。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト