WeWorkにみる不動産市場の秋風

北米は下がったと言えども高い不動産価格を維持してきました。その理由の一つは低い金利を背景に巨額の資金の調達が可能だったからでしょう。過去形にしたのは明らかに不動産向け資金調達マーケットは変わってきているように感じます。

私も所属する不動産開発事業者向けに特化した融資のシンジケート団。持ち込まれる案件に対して自分が相乗りして融資団に入るか目論見書から判断します。このところ、案件が増えているのですが、私は全部スキップさせてもらっています。理由は裏腹なのですが、利率が高すぎるのです。概ね年利が10~12%といった数字が提示されています。これは銀行が不動産開発の初期では融資をしないため、土地を取得し、許認可を取り、着工前販売を行い、ある程度の成果が出て銀行が融資を付けるまでをつなぐブリッジファイナンスが必要でこの手の資金はこのような特殊なシンジケートローンから調達します。私はこのリスクが大きいと判断しているのです。

年利10%以上の金利を払うことを続けられるのは物理的に3~4年であることは不動産専門家でなくても明らかです。私もかつて一部資金を12%で借りたことがありますが、借入期間は3年がマックスと言い聞かせ、必死でした。幸い2年で完済できました。

バンクーバーの街中にはすでに開発が止まっている集合住宅物件が出ています。建築途中で現場が放置されているところもあります。新規開発案件は山のようにありますが、目先、実際に動くのは数えるほどしかないとみており、むしろ集合住宅市場には需給の悪化を防ぐ良好な傾向なのかもしれません。

ところが商業不動産となるとこれは全く別の生き物であります。なぜオフィスビルが林立するのか考えたことがありますか?私にはさっぱりわからないのです。28年前にバンクーバーに来た時からずっと不思議に思っていることは会社にとってオフィス賃料は何も生み出さない固定費のようなものだと。会計士や弁護士事務所に行くと一等地の高級ビルに入居し、広々とした受付、品の良い受付嬢が恭しく対応することに何ら価値観を感じることはありませんでした。

事実、IT化が進む中で人は事務職はバッサリ切られ、必要とされる事務所スペースは減っているわけでそれ以上に事務所ビルが必要だとすれば経済全体が伸びていて企業数が増えているなどの理由があるはずです。アジアの都市ならともかく、北米が果たしてそうなのか、疑問なのです。

(WeWork公式サイトから:編集部)

ところがその疑問を埋めてくれたのがシェアオフィスの会社であります。英国育ちのリージャスが先鞭をつけ、WeWorkが猛烈な勢いで後追いしているのです。いや、もうすでに抜き去っているでしょう。リージャスもWeWorkもシェアオフィスにいくつかのタイプがあります。私どもの会社はいわゆる中が見えない普通の個室タイプに入居しています。それ以外にWeWorkなどではガラス張りの個室、あるいはテーブル一つ借りるのもあるし、場所をアサインされないコーワーキングスペースもあります。

北米主要都市ではこのシェアオフィス需要が席巻しオフィスビルの空きフロアをごっそり埋めてくれているのですが、私から言わせれば「流行以外の何物でもない」とみています。つまり、以前も指摘しましたが、このビジネスモデルは消えませんが、コアの需要はもっと浅くて今より2~3割減るべきと見ています。

先日打ち合わせで行ったあるWeWorkのオフィス。私ですら衝撃でした。ちょっと宣伝風に表現すると「ガラス張りだから居眠りしちゃだめだぞ。ファッションに気を遣い、格好よく仕事をしようか?ディバイスは最新のものかな?紙の書類は環境にもよくないから全てコンピューターのクラウドの中さ。帰宅の際には机の上には何も置かないで貴重品は必ず持ち帰ろう。我々は一切責任を負わない。スマホトークは他の皆さんに迷惑になるから専用に作られた電話ボックスの中で話そうか。共有部分はシェアオフィスの売りどころ。ライバルには負けない拡充感でコーヒーやリフレッシュメントだけではなく、月替わりの人気クラフトビールのサーバーはだってあるぞ。これ無料で飲めるのだ。これで机一つ借りて月600ドル(5万円)は安いと思わないか!」。私は孫正義さんに読んでもらいたいです。

そこにいる人はほとんどが20~30代と思しき若者。ほとんどが一人仕事。つまり、自営業であります。コーポレーション(会社)じゃないのです。一人仕事でどんな生産性があるのでしょうか?ネットを介したサービス業が大半でしょう。なぜ、会社に入らない、といえば北米ですら企業マインドの中に自分を溶け込ませることが難しくなった若者たち、ということかと思います。

フィナンシャルタイムズにはNYでのWeWorkブームは去りつつあるとあります。WeWorkで奮闘する一人起業家たちはGAFAの波を受けた派生事業に大挙して向かい、レッドオーシャン化した市場でファッション感覚で仕事をするのです。先日、私のブログでWeWorkは金融緩和マネーのバブルの申し子的になりやしないか的なことを書きました。個人的にはその思いをより強くしています。事務所ビルの所有者達にはWeWorkにはもうスペースを貸さないという風が吹き始めています。

不動産市場に吹く秋風はちょっと冷たいようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年10月11日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。