二重国籍を認める国籍法改正が必要だ

池田 信夫

スポーティング・ニュース公式ツイッターより

10月16日に22歳になるテニスの大坂なおみ選手が、日本国籍を選択した。彼女は米国籍も持っているので、そっちをどうしたかについては情報がないが、おそらくこのまま保持するのだろう。アメリカは重国籍を認めており、国籍離脱者から(租税逃れ対策として)純資産の20%近い国籍離脱税を取るからだ。

IOCの規定では国籍を変更した選手は3年以上たたないとオリンピックに出場できないので、彼女は今からアメリカ代表になることはできないが、日本代表になるために米国籍を捨てる必要もないので、二重国籍のまま出場できる。

しかし日本国籍を選択して米国籍を抜かないと、法的には違法状態になる。日本の国籍法では、次のように重国籍を禁じているからだ。

第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。[中略]
3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う

第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

大坂選手が法務省から催告を受けた場合には、1ヶ月以内に米国籍を離脱しないと日本国籍を失う。第16条で努力義務になっているのは、ブラジルのように国籍を離脱できない国の例外規定で、アメリカは離脱できるので、催告されたら米国籍離脱の義務を負う。

しかし国籍法にもとづく催告が行われた前例はない。国籍を剥奪するという罰則が重すぎるために空文化しているのだ。これは法務省も国会答弁で認めている。

法務大臣がこの法律に基づく国籍の選択をすべきことを催告した例というものは、これまでございません。これは、催告を行った場合は、催告を受けた日から一カ月以内に日本国籍を選択しなければ、自動的に日本国籍を喪失することとなるわけでありまして、このことが、重国籍者本人のみならず、その親族等関係者の生活その他全般にわたって極めて重大な影響を及ぼすものであることから、慎重に対処する必要があるからであります。

だから大坂選手が米国籍を離脱しなくても(催告を受けない限り)東京オリンピックに日本人として出場できるが、違法状態で出場することになる。法務省が「大坂選手は合法か違法か」と質問されたら「違法とはいえないが違法状態に近い」と答えるだろう。

蓮舫問題もこれに似たケースで、22歳で国籍取得したとき台湾籍を抜くのを忘れていた。民進党の代表は首相になって自衛隊の最高指揮官になる可能性があるので重国籍は許されないが、スポーツ選手の重国籍には実害がないので、法務省は催告しないだろう。

日本にはこういう違法状態の外国人が50万人ぐらいいるといわれるが、政府は実質的に重国籍を認めている。そういうグレーな状態は法治国家として好ましくないので、これを機に国籍法15条の3を削除し、公式に重国籍を認めてはどうだろうか。