AIと憲法、差し迫った課題

山本龍彦さん編集「AIと憲法」。
10名余による多角的な論文集です。

AIの発達・普及、データ駆動社会の到来で、憲法学者やその近傍の論者が元気で忙しくしています。
AIが社会経済の根幹に深く作用することが明らかになったということでしょう。
かつ、かつての予測より急激にそうなるということでしょう。

企業の人事採用、金融の与信、犯罪の予測にAIプロファイリングが使われ、排除・差別される。
個人の尊重や平等に関わります。

プライバシーの保護、経済活動の自由、通信の秘密の保障に関わることがらです。
ユーザ情報が選挙に利用される。民主主義や国民主権に関わる事態です。

AIの提示する事態は、憲法という単体の法にとどまらず、その理念を体現するさまざまな法律に作用します。
メディア関連では、個人情報保護法、官民データ基本法、電気通信事業法、著作権法、独占禁止法など。
んで、これら法律は毎年のように見直し論が立ち上ります。

本書のカバー範囲はより広い。
プライバシー、行動ターゲティング広告、経済秩序・競争環境、人格、教育制度、民主主義、選挙制度、司法。
AIの進化に伴い、課題は拡散しているようです。

世間を騒がせた海賊版問題も憲法問題でした。
電気通信事業法=通信の秘密vs著作権法=財産権の保護という、憲法が保障する権利の対立。
そしてそれは、日本が米欧と異なり、通信の秘密にいろいろ重荷を乗せている特殊性も手伝った問題です。
そしてまだ揺れているテーマです。

憲法からみた場合、AIは軍事問題より大きく、差し迫った課題、危機に見えます。
AIの無防備な推進論への警鐘でもあります。
軍事的側面からの憲法改正は、実体的な必要性をぼくは感じていないのですが、AIに関しては実体があると考えます。

AI社会を空想する時期は過ぎたと考えます。
これまでの数十年、空想のモラトリアムを与えられてきました。
AI進化の停滞もあって、空想で許されてきた。
その技術が実装とあいなって、バタつくのはおかしい。
深呼吸して、制度も実装しましょう。

法学者と科学者とがタコ壺では解けません。
25年ほど前、ネット黎明期、法学、経済学、SF作家・アーティスト、政治家、若いユーザを混ぜた議論の場を(官僚だったぼくは)盛んに設定しました。表舞台に、ウラ街道に、構築する汗を流しました。
もう一回、それが必要です。国際的に。

本書の編集、山本龍彦慶應義塾大学教授にはお目にかかったことはありませんが、気鋭のみなさんの活躍は頼もしい。

東大の憲法、宍戸常寿教授。
京大の憲法、曽我部真裕教授。
理研AIPセンター長の杉山将東大教授。
UEIの清水亮社長。
みな40代中盤。
その世代に任せます。
ぼくはその世代を邪魔する連中をはねつける担当です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。