【霞が関の声②】検討に値する質問内容でも政府側の負担に配慮を

アゴラ

【編集部より】森ゆうこ氏の質問通告騒動を機に国会改革や霞が関の働き方改革の必要性が指摘されていますが、騒動の本質がマスコミで十分に報じられず、国民的な理解が進んでいません。アゴラ編集部では、霞が関で働く皆さんから匿名での投稿による意見を募集中です(募集告知はこちら)。

第2弾は某官庁勤務の30代課長補佐のかたです。森議員の通告内容で、通常の国会対応からどう動くか、森氏ら野党側が主張する「質問権の侵害」が妥当なのかを論じつつも、国家戦略特区の課題についてもフェアに意見を述べられております。

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森ゆうこ参議院議員の予算委員会での質疑準備をめぐって議論が起こっている。本件については、省庁関係者と見られるツイートが発端となったこと、質疑内容が国家戦略特区の運用という政権にとってセンシティブなテーマであったこと等に加え、国民の間で国会審議の準備作業について十分な知識が共有されていないことも重なり、議論が錯綜、非難の応酬に陥っている感が否めない。

そこで手続面で問題提起されている以下2点について状況を整理しつつ、現職公務員として私見を述べることとしたい。

  1. 森議員の質問通告が遅れたことにより、大型台風が接近している状況であったにもかかわらず、省庁側の待機・答弁作成作業が深夜に及んだとされる点
  2. 内閣府が、参考人招致された原英史氏に質問内容を連絡し、更に同氏が高橋洋一氏に連絡したこと等について、議員側が情報漏洩を主張している点

1. 森議員の質問通告が遅れたことにより、大型台風が接近している状況であったにもかかわらず、省庁側の待機・答弁作成作業が深夜に及んだとされる点

ツィートで、森議員は11日16時30分には質問通告を完了したと主張しているようだ。当方には事実関係の正誤を判断する情報がないため、この点は議員が事実を述べていると仮定する。

他方、ツイッターで拡散されたバッター表(質疑者と通告省庁の一覧資料)には、「要旨対応済」との記載が見られ、同議員の通告はいわゆる「要旨」(質問項目と通告大臣が箇条書された紙)の送付のみで、省庁側が議員事務所に赴いて行われる質問レクも実施されなかったと見られる。

さらに、議員は通告後、質疑の関連資料を複数回にわたり追加送付したようだ。実は、通告時に必ずしも質問内容が固まっているわけではなく、多くの場合、要旨として質問項目(例:「国家戦略特区について」)と通告大臣のみ通知され、その後、省庁が質問レクや電話問合せにより具体的な質問内容を確認・確定する作業を行うのが一般的である。

議員によっては要旨送付のみで質問レクを行わないこともあり、電話問合わせも不可とされる場合がある。この場合、役所側は近時の議員の質問内容や関心事項を踏まえ想定問答を検討しなければならず更に作業負担が増える。ツイートで拾える情報によれば、森議員は今回問い合わせ不可としていたようだ。

一般的に質問通告後でも役所がすぐに答弁作成できるとは限らず、今回は正にそうしたケースであったことに留意する必要がある。さらに、バッター表を見る限り、問表(当日の質問内容全体を書き下した資料)が深夜から休日にかけて差し替えられており、これは森議員が事後送付した資料を受けて、省庁側が質問内容を再検討せざるを得なかったことを示唆している。

当該資料の内容が不明のため断言できないが、当初提出された要旨について、質問項目や通告大臣が事後追加されるケース(差替え)は珍しくなく、この場合、深夜、場合によっては質疑当日まで役所側の追加作業が発生しうる。

かかる状況を踏まえれば、森議員が通告時間自体は守っていたとしても、要旨送付対応の上、事後、質問内容に差し替えを生じさせる形で省庁側の作業負担を増やしたことは事実であり、胸を張れる対応とは言い難い

2.  内閣府が、参考人招致された原英史氏に質問内容を連絡し、更に同氏が高橋洋一氏に連絡したこと等について、議員側が情報漏洩を主張している点について

参考人に対し質問内容を連絡し、担当省庁との間で矛盾なく答弁できるよう調整を行うのは当然であり、仮にこの点を捉えて情報漏洩と主張されているのであれば理解に苦しむところである。

参考人に対して主管省庁が窓口となって連絡することは自然であり(政府外でも日銀等は国会に対する窓口があるようだが)、その際、民間人である参考人になぜ貴重な時間を割いて対応してもらう必要があるのか、質問内容に照らし説明するのは合理的と言える。

また、高橋氏への連絡も、原氏の主張のとおり質問内容に係る事実関係の確認のためということであれば信義則に反する行為とは断じ難い。国家公務員法の守秘義務を持ち出すまでもなく、政府職員が第三者に対し職務上知り得た情報をむやみに明かすべきでないことは言うまでもないが、本件では原氏は当事者である。また、参考人を含め、質疑対応のため関係者に対して事実確認等を行うことは合理的な範疇であろう。

他方、高橋氏が質問内容につきネット番組等で事前に言及したことや関係者とみられるツイートについては是非を論ずる余地はある。しかし、質問内容が事前に公になることをもって質問権が侵害されたとする議員の主張は国会質疑の趣旨に照らし飛躍が過ぎると言わざるを得ない。

現在の国会質疑においては、有意義な議論を行うため事前に議員の質問内容や問題意識を正確に把握し、その意図を踏まえた回答を準備するため政府側が膨大な人員・コストをかけて対応に当たっているのである。

これに照らし、質問内容を厳重に対外秘匿する(付け加えれば簡潔な要旨通告で済ませる)ことにいかなる必然性があるのか、議員のご見解を是非伺いたいものである(特に、国会質疑の現状を改善するため、何らか問題意識をお持ちの上でのご対応であれば)。

私見ながら小官も、国家戦略特区については公正・透明性の観点から今後の運用や制度維持について検証の余地があると考えている。また、別件ながら、避難所の設備・処遇についての森議員のご指摘は検討に値すべき重要な内容であった。

しかしながら、いかなる質問や主張であろうと、手続きはルールに従って然るべく進められるべきであり、その際は政府側の負担にも十分ご配慮いただきたい

拙筆ながら本稿により国民の皆様が国会審議の現状について理解を深められ、国家の命運をかけた議論が言論の府において堂々と展開される一助となることを願っている。

某官庁勤務  30代課長補佐