現在でも様々な法令で、宅地開発や建物の新築・増改築等を制限し、結果的に居住が制限されている地域はたくさんある。
例えば、市街化調整区域(都市計画法)や災害危険区域(建築基準法)、急傾斜地崩壊危険区域(急傾斜地法)、土砂災害特別警戒区域(土砂災害防止法)など、これらに指定された区域では、建築行為を禁止したり制限したりしている。ただ、そのような区域であっても、ある日突然「人が住めなくなる」わけではない。いずれの区域も「居住を禁じている」訳ではないのだ。
近年、自然災害が猛威を振るうなかにおいて、災害の危険度が高い場所については、居住の制限をすべきだという声がある。また、人口減少に伴って必要性が叫ばれている「コンパクトシティの実現」も人や施設の集約が前提となる。
コンパクトシティに対する取り組みとしては、平成26年に都市再生特別措置法が改正され「立地適正化制度」が創設された。立地適正化制度のもと、「居住誘導区域」や「都市機能誘導区域」を定め、人や施設の集約(一極ではない)を目的とするもので、これらの誘導区域には市街化調整区域はもちろん、災害危険区域や土砂災害特別警戒区域などは含まないものとされている。
国土交通省では、立地適正化計画を作成している各都市(278団体、令和元年10月11日現在) における主な取組を公表しており、そのなかのひとつ、秋田県秋田市では立地適正化計画の目標年次をおおむね20年後の2040年としている。他の都市も計画の策定から20年という目標年次を定めている団体が少なくない。
この20年という時間が「長いか・短いか」は各地域の状況や特性にもよるだろう。ただ、将来的に現時点で思い描くコンパクトシティが実現しても、その時には今よりもさらなる都市のコンパクト化やさらなるダウンサイジングが必要になっているかもしれないし、今よりも甚大な自然災害が度重なって発生する危険が高まっているかもしれない。
つまり、長い時間をかけて行う「誘導」による人や施設の移転が、今後の時代変化のスピードについていけるかどうかという懸念は拭えないのである。
国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年時点の人口がおよそ1億1000万人だと推計している(2017年推計)。現在の人口よりもおよそ1500万人程減少していることになるが、問題はその時点での65歳以上の人口割合が現在よりも約5パーセントほど高い約35パーセントという推計になっていることだ。つまりこれから20年の間で人口が1割以上減るのに、65歳以上の人口は今よりも増えることを表しているのである。
強力な都市計画によって、居住エリアやその他の用途について強制的な制限を設けることは現実的に難しい。憲法22条でも居住や移動の自由は保障されている。
強制力を持たない「誘導」によって、都市機能の集約や人口減少・超高齢化・災害・に対応する街づくりを行うには、「誘導に対する強力なインセンティブ」が必要だろう。移住や移設に対する公的な融資や費用の補助、税制優遇などが考えられるが、それがあったとしても、移住や移設に「時間的な拘束」をかけることは難しい。
問題はその「時間」にこれからの日本が耐えられるかどうかだ。
高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。