「いまの時代は、「成功/失敗」「勝ち/負け」「得/損」などの二元論の傾向が強い。しかし、本当の人生は、もっと広く深く、素敵で楽しく、愉快でシャレのきいた遊園地のような場所のはずである。
今回は、『人生、真面目に生きるほどヒマじゃない。』(大塚慎吾著/きずな出版)を紹介したい。
大塚さんは大学の卒業単位がギリギリだったそうである。1年のときには8単位しか取れずに「エイトマン」というあだ名をつけられ、2年3年のときはカンニングを駆使してなんとか4年で卒業できるか瀬戸際だったそうだ(実は大塚さんは有名大出身である)。
4年生の最後のテスト期間中に、苦手な教科のテストを迎えようとしていた。その教科を落としてしまうと卒業が危ういという状況だが、テストの条件のなかにある一文を見つける。それは「何でも持ち込み可」というもの。
(大塚さん)「僕がリサーチをしたところ、友人の多くは、『教科書を持ち込む』『自分で書いたノートを持ち込む』などと話していました。ただし、自分が同じことをしても単位は取れないだろうということは予想がつきました。僕は考えました。どうすれば、何を持ち込のば単位を取ることができるのか」
(同)「学食に行くとそこに同じクラスの高橋くんがいました。高橋くんはすごく勉強ができるわけではないのですが、クラスのなかでも真面目なほうです。『おい、高橋!腹減ってないか?』と聞くと、まだ昼食をとっていなかったらしく『お腹すいているよ』と返します。『じゃあ、今日は俺が焼肉定食おごってやるよ!』と話しました」
高橋くんはあからさまに訝しげな表情を見せた。なにか裏があると思ったに違いない。しかし、焼肉定食の誘惑には勝てなかった。美味しそうに平らげてしまう。そして、完全に食べ終えたのを確認してから次のように切り出した。
(大塚さん)「『実は俺、単位がギリギリなんよ』。『うん、知っているよ』と高橋くん。『このテストはなんとか受からんといけんのよ』。高橋くんは嫌な空気を感じたらしく後退しようとしました。そこで高橋くんに言いました。『そのテストは何でも持ち込み可なんだよ』。そして、こう切り出します。『俺は、高橋を持ち込む!』と」
結果的に、高橋くんを無事に持ち込み、解答はすべて書いてもらったそうである。そして、無事に4年で大学を卒業することができた。柔軟性を持った発想が生み出してくれた楽しい経験だったと、大塚さんは語る。やはり、人生は楽しまなくてはいけない。なお、今回、出版の夢を実現させた、大塚慎吾さんの前途を祝したい。
[本書の評価]★★★(77点)
【評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満
※2019年に紹介した書籍一覧
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※14冊目の著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を出版しました。