女性依存症者の財産となる一冊

今日は、超マニアックな話をします。
「否認の病」と言われる依存症という病気そのものも実に分かりにくいものですが、その上、依存症の回復プログラムといったら、ますます分かりにくいどころかチンプンカンプンだと思います。

※画像はイメージです(写真AC:編集部)

日本では、本当に知られていないですが、世界で最も依存症者が多数回復したプログラムと言えば、それはもう「12ステップ」に勝るものはありません。
確か世界120カ国以上で使われ「20世紀最大の奇跡」と呼ばれていると我々は伝え聞いております。
誰がそう言っているのかは謎ですが(笑)

おそらくTIME誌が、この12ステップを作り、AAと呼ばれるアルコール依存症の自助グループの創設者の一人でもある、ビルWを「TIME誌が選ぶ20世紀の100人」に選んだことなどが関係しているのでは?と勝手に推測しております。

12ステップは、もともとアルコール依存症者のための回復プログラムでしたが、それが依存症の家族にも効果があると分かり、その後他の依存症や、ありとあらゆる生きづらさを抱えた人などに効果があると言われ、今では200種類位のグループで使われているそうです。

この12ステップが日本では本当に広がっていないんですよね。
医者や支援者も「12ステップって宗教っぽい」と思っている人が多く、勝手に「日本人には向かない」「あれはキリスト教の国のもの」と決めつけてかかっていたりするので本当に厄介です。

やってもいないのにわかったようなこと言って、援助職が入り口を閉ざすのだけはやめて貰いたいですね。
このサイトにあるように12ステップには確かに「神」という言葉が出てきますが、これは宗教上の神とは違います。
AA12のステップ(AA日本ゼネラルサービスオフィスHPより)

私が思うに12ステップとは?それはもう「哲学」なんですよね。
最終的には「自分より偉大な力の導きに従っていけ!」そして「自分と同じ問題を抱えた人々を助けろ!」っていうことをやれば、おのずと依存症から回復しちゃうよ!ということなのです。
でも、そんなのいきなり出来ないから、そこに行くまでに12のプロセスを踏んでやる!ってことなんです。

難しそうですけど、12ステップと同じようなことは、各界の著名人も言っていて、例えば、スティーブジョブスは、

「未来に先回りして、点と点を繋げることはできない。
君たちにできるのは、過去を振り返って繋げることだけなんだ。
だから点と点がいつか何らかの形で繋がると信じなければならない。
自分の根性、運命、カルマ、何でもいいから、とにかく信じるのです。
歩む道のどこかで点と点が繋がると信じれば、自信を持って思うままに生きることができます。
たとえ人と違う道を歩んでも、信じることが全てを変えてくれるのです。」

と、こんな名言を残していますが、つまりは12ステップというのは生き方を導くものなんですよね。

で、ずっとこの12ステップが信頼されている書籍がないかなぁ・・・と思っていたんですけど、ついに見つけた!というか、やっと読んだ!というか、これぞまさにおススメ!という一冊をご紹介します。

ローズマリー・オコーナー著「お母さんのためのアルコール依存症回復ブック」(金剛出版)という本で、我らが松本俊彦先生と、今村扶美先生が監訳されたご本です。

声を大にして言います!これは良い本です!
数多くある松本先生が関わられたご本の中で一番好きですね~。よくぞ出版して下さいました!
依存症の専門家と名乗る人が書いたものは玉石混交です。
「なんじゃこりゃ!?」ってなのも実際あります。

でもこの本の素晴らしいのはアメリカのAAメンバーが実体験を書いていること。
しかも嬉しいことに、1999年にAAにつながって、今はリカバリーカウンセラーとなっている、私みたいな立場の人なんですよね。私が2004年に自助グループに繋がったので5年先輩です。

私自身、気持ちがものすごく良く分かるのですが、12ステップをベースにして、さらにそこを補強するように、「トラウマワーク」とか「お金に関する見直し」とか「恋愛依存の問題」とか、ご自身のウィークポイントに必要な、様々なプログラムを導入して回復していく姿が描かれているんです。

これには本当に感動!「このプロセス、私と同じだ!」と思いましたね。
私は日本にいるので、この方ほど恵まれたプログラムを受けられた訳じゃないですけど、主に海外のカウンセラーから様々なプログラムを受けたこと・・・これが回復に本当に役立ちましたよね。

特に、来春公開予定の「プリズン・サークル」でも取り上げられている、
プリズンサークル公式HP
エンカウンターグループは私を救ってくれました。
「12ステップ+エンカウンターグループ」は最強の依存症回復プログラムだと思っています。

でも、私ほど恵まれた環境に居なくても、12ステッププラスアルファでできることは沢山あります。
例えば、依存症と感情の問題は密接に関わっているので、「感情日記」を1年間つけてみたり、自分の子供時代に手紙を書いたり、瞑想や呼吸法を学んだりもしました。
とにかく必死でした。あの頃のメモやノートを見ると今でも涙が出るくらい苦しかったですね。

この本の著者ローズマリーさんも、12ステップで回復しながらも様々な壁にぶつかり、それを一つずつ克服していくんです。
で、その時々に名言が挟まれていたりして、思わずうなりますよ。
例えば「罪悪感」というページでは、
「罪悪感とは、負け続ける才である。―アーマ・ボンべック」
とかね。我々罪悪感好きの依存症者にとっては、まさにその通り!って感じですよね(笑)

私も、ローズマリーさんの様に回復に役立った様々なプログラムについて、自分のプロセスと共に書いてみたいなぁ~と思いました。
間違いなくこの本は、女性の依存症者の財産であり、金字塔となる一冊だと思います。
皆さん、是非読んでみてください。

あっ、そうそうついでに12ステップについて知りたい方は、拙著「三代目ギャン妻の物語」を読んでね(笑)
超わかりやすく書いてま~す!


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト