先日の台風19号において、堤防が未整備であった二子玉川周辺での水害はニュースとなり、話題になりましたが、東京23区内の他においては大規模な被害はありませんでした。
私の周辺でも環七の地下調節池(以下、詳述)ができたおかげで水害は全く起きなくなったと思っている住民の方々がいます。
行政が治水事業をしっかりと推進してきた結果ともいえますが、先の台風19号においては23区内で強風に見舞われたものの、実は23区内に大災害をもたらす豪雨が降らなかったためであります。
「東京の治水安全度が高い」は間違った思い込みです。
私が住む中野区を流れる神田川では、台風が来るたびに水害を引き起こす暴れ川でした。
例えば、写真1は平成5年台風11号の浸水の様子で、このとき中野観測所で時間最大雨量26mm、総雨量212mmという決して強烈な降雨でなくとも、家庭においては床上浸水、トイレの汚水の逆流などがありました。
東京都と区市町村は、昭和61年(1986年)7月の「東京都における総合的な治水対策のあり方について本報告」(61答申)の提言内容を実現するため、平成7年度(1995年度)までの間に「総合的な治水対策暫定計画」を策定し、総合的な治水対策を推進してきました。
しかし、近年、都内の一部地域において局地的な集中豪雨が頻発しており、その中でも平成17年(2005年)9月には、時間100ミリを超える豪雨により杉並区・中野区を中心に甚大な浸水被害が発生しました。
こうした状況を受け、都は平成19年(2007年)8月に「東京都豪雨対策基本方針」を策定し、平成26年(2014年)6月に「東京都豪雨対策基本方針(改定)」を改定しました。
その事業の一環としての神田川・環状七号線地下調節池が平成9年(1997年)4月から第一期事業箇所、平成17年(2005年)9月からは第二期事業箇所の供用を開始し、大きな水害もなくなりました。
現在は環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事を実施し、時間100ミリまで対応が可能になるように事業を推進しています。
中野区はこの調節池の平成17年までの第二期事業箇所の供用によって水害が劇的に減少しました。
河川流域の住民の方々には、全国的に大きな水害が出した台風19号に耐えられたのであるから、もはや絶対に安全、治水安全度は十二分になったとの安全神話が確立された感もあります。
しかしそれは災害心理学などで使用されている心理学用語で“正常バイアス”といわれる「私は大丈夫」という心理です。
しかしそれは全く間違っております。
図は気象庁が発表した台風19号の期間4日間(10月10日0時~13日24時)の合計である雨量です。
1000ミリ以上を意味する赤色もあり、降水量が多かったことが示されております。
図2は上図の東京付近を拡大したものであります。
東京の23区内においては全体的に400ミリ以下、東側では200ミリ以下であることが示されております。また東京23区より西側のいわゆる三多摩といわれる地域では800ミリの降雨も散見されます。
三多摩での降雨は多摩川の増水をもたらし、二子玉川の氾濫に至ったことも概略を説明できます。
以下に参考資料も示すところではありますが、台風19号において東京23区においては大規模災害に至るような降雨ではなかったということがわかります。
今回の台風をもって東京は安全であるという思い込みはなくしていただきたいと思います。
台風と地形性により雨の降り方は異なるものの、コースが異なることで23区が大打撃を受けていた可能性があり、今後も地球温暖化による気候変動によりそのリスクは高まっていくことが想定されます。
まだまだ整備は道半ばであり、地元住民、特に河川周辺にお住いの方々にはよくよくご理解をいただきたいと思います。
以下、参考
表1・2は同期間で降水量が多かった気象官署つまり観測所の雨量データです。表1は全国で多かった順で、表2は東京都内のすべての官署のデータです。
全国と比較して、23区内の降水量は大きなものではなかったことがわかります。
表3・4は台風19号の期間における最大の1時間降水量です。表3は全国の上位20位、表4は東京都内全官署のデータです。
東京23区内は50ミリを超える地点はなく、東京都が進めてきた治水対策の想定内に収まっており、災害をもたらす規模の降雨ではありませんでした。
加藤 拓磨 中野区議会議員
1979年東京都中野区生まれ。中央大学大学院理工学研究科 土木工学専攻、博士(工学)取得。国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 研究官、一般財団法人国土技術研究センターで気候変動、ゲリラ豪雨、防災・減災の研究に従事。2015年中野区議選で初当選(現在2期目)。公式サイト