みなさんは円谷幸吉さんという方をご存知ですか?1964年の東京オリンピック、男子マラソンで銅メダルを獲得したアスリートです。私はこの方の存在を知りませんでしたが、オリンピア・キュクロスというマンガを読んで、はじめて知りました。
二巻で取り上げられているのですが、円谷幸吉さんは銅メダルを獲得した4年後、年明けに頸動脈をカミソリで切って自殺しました。
アスリートラストの悲劇
円谷さんは東京オリンピックで銅メダルをとり、多くの人から称賛されました。日本の陸上競技では唯一のメダルだったそうです。そんな円谷さんがなぜ自殺を図ったのでしょうか。今では複合的な要因とされていますが、少なからず影響していたのは日本の「アスリートラスト」の考え方でした。
銅メダルを獲得したあとはちやほやされるかと思いきや、4年後のメキシコオリンピックでは金メダルを獲得することを世間から求められるようになります。「銅メダルを獲得したら次は金メダルを目指せる」なんて、今では安易な考え方だと思う人のほうが多いかと思いますが、当時は違ったようです。
当時、所属していた自衛隊体育学校の校長が選手育成の考え方を大幅に変えたことはまさにアスリートラストの考え方でした。中でも衝撃的なのが円谷さんが婚約していた女性との結婚を校長は認めず、破断に追い込んだという事実です。オリンピックで金メダルを取るために、女性にうつつを抜かしてはいけない、訓練に没頭すべきだということでした。
練習も科学的な根拠に基づいたものではなく、オーバーワークが続き、結果的に怪我をして手術をする事態となったのです。
アスリートファーストは根付いたか?
円谷幸吉さんのことを詳しく書いた本はたくさんありますので、より詳細に知りたい方は買って読んでいただければと思います(参照)。当時はアスリートのプライベートまでコントロールし、全くアスリートファーストではありませんでした。翻って、現在はどうでしょうか?2020年、東京オリンピックが行われますが、マラソンと競歩が札幌で開催されることになりました。アスリートファーストとIOCは盛んに口にしていましたが、本当にアスリートファーストで考えていたのでしょうか?
先日、日本陸連が会見を開いて札幌での開催に対して疑問を呈していました。日本陸連が本当に現役アスリートの言葉を代弁しているかはわかりません。
山下佐知子氏、札幌開催に「選手をばかにすんな」(日刊スポーツ)
海外の選手でも今回の決定に疑問を呈している人もいます。東京が暑いから大変だと言うなら、なぜ他の競技は移さないのか?という指摘は本質をついているといえるでしょう。本当に暑くて危険なのであれば、トライアスロンやビーチバレーなどの競技も移すべきでしょう。
強行札幌移転に怒り カナダ競歩メダリスト ツイート36連投で訴え「IOCの偽善」(デイリースポーツ)
円谷幸吉さんの悲劇を若い人も知っておこう
円谷幸吉さんが亡くなってから50年以上が経過した今、また日本でオリンピックが行われます。当時のようにプレッシャーでアスリートを潰すことはさすがにないとは思います。しかし直前での札幌変更や東京都のお粗末な暑さ対策など、アスリートへのリスペクトがあるのか?疑問に思う部分も多々あります。
華やかなオリンピックの裏で、このような悲劇を二度と生まないように願います。ぜひ若い方も円谷幸吉さんのことを知っておいてください。私も今まで知らなかったんで、胸に刻みながら東京オリンピックを迎えたいです。
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松本 孝行
セカンドチャンス 代表