トイレを我慢しないバスの運転手は、死刑に値する罪なのか?

※画像はイメージです(はむぱん/写真AC)

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
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現役バス運転手が守秘義務の限界に挑戦(@bus_driver401)さんの投稿が話題になっています。

たくさんのコメントがついており、

毎日安全運転お疲れ様です。生理現象なので仕方ない事ですよね。到着時間も運転手さんのトイレ休憩込みの時間を予め知らせてくれたら良いと思うのです。私は頻尿だから長時間トイレに行かないバスの運転手さんは凄いと思います。

という肯定的なものや、同情を示すものばかりで溢れかえり、バス運転手さんの苦労に理解を示しています。真剣に仕事に従事している運転手に対して「◯すぞ!」と、グレーではなく真っ黒な犯罪予告をしてしまう乗客の思考を分析していきます。

「生理現象の我慢」は地獄の苦しみ

人生を生きる上で様々な苦しみが存在しますが、中でも生理現象を我慢することは生命に直結するまさに「地獄の苦しみ」と言っても過言ではありません。

睡眠や空腹を我慢し続けられる人はいません。トイレという生理現象の我慢も、これらと遜色ない苦しみが伴います。筆者は東京で会社員をしている時、朝から冷たい牛乳を飲んでお腹を壊し、電車を途中下車してコンビニのトイレを利用したことがありました。その時の苦しさというのはかなりのものです。下手な駅で降りると会社に遅刻してしまいますから、元々降りる予定だった駅まで我慢します。

駅を降りた後も、駅のトイレまでいって長蛇の列が出来ていて絶望…。そこから我慢しながら近くのコンビニを探します。東京のコンビニには、トイレが使えない店舗もあります。万が一にでも、我慢の限界を超えることは許されません。精神は極限状態、お金を払って目の前に清潔なトイレが出てくるなら、いくらでも支払う!という気持ちになります。

生理現象の我慢は地獄の苦しみなのです。

「仕事中の人間」がドレイに見える人たち

トイレにいく運転手に殺害予告をしてしまうような人は、人間的に未熟です。

彼らも普通の人、友人や同僚、家族に「◯すぞ」なんて言わないのに、目の前の相手が仕事に従事していると認めるやいなや、簡単に激昂してしまうのです。彼らの思考の中を覗き込んでいると、「仕事中の人間はドレイである」と認識している事実が見えてきます。

スタンフォード監獄実験という有名な話があります。一般人に看守役と囚人役に別れさせたところ、絶対的な権力を持つ看守役が囚人役を弾圧し始めたという実験です。実験の真偽のほどが揺らいでおり、絶対なる科学的信憑性が担保されていないとはいえ、この実験は「絶対服従の関係性は、人を残酷にする」という事実に光を当てたものと筆者は認識しています。

普段はおとなしい人でも、逆らえない仕事中の店員さんなどを捕まえて暴言を吐く場面があります。これはまさに、仕事中の相手がドレイにしかみえない人間心理を表したものです。

今回のバスの運転手への暴言についていえば、スタンフォード監獄実験における看守役になったと錯覚した乗客が引き起こした騒動と考えます。自分より弱い立場にある人に残酷になるのは、極めて稚拙で未成熟な精神状態と言わざるを得ません。他国においても同様の現象が見られるケースもあることから、これは人間が持つ原本能に近い性質と考えます。本能からの呼び声に抗い、自分の精神状態の壁を切り開き、相手に配慮する精神力を醸成できるのは、教育の力しかありません。

相手に配慮する力は教育によって醸成される

相手に配慮するには、ある程度の知的レベルと教育が求められます。

相手が自分の言葉で受け取る印象を想像する力、相手の心象を想定してワーディングチョイスをする思考プロセスを経なければ、気持ちのいいコミュニケーションはありえません。元々の知性に加えて、後天的に獲得される社会的なコミュニケーションや経験がなければ相手に配慮する、ということは出来ないのです。

つまり、このような事件に対する特効薬は存在せず、あくまで社会的な文化レベルの向上を待たなければならず、学校での情操教育など、緩慢な前進であることを想定した改善案が求められるのです。

とはいえ、この運転手の主張によると、マナー違反の多くはお年寄りが多数ということですから、若い世代はこのような暴挙に出るケースは、高齢者に比べて相対的に少ないようです。

どんな仕事に従事している人も、感情を持った自分と同じ人間です。そのことを忘れず、お互いに気持ちのいいコミュニケーションの実現と、寛容な心で接する余裕を持っておきたいものです。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。