立法事実がなくても会社法は改正できる?(改正法案、いよいよ審議入り)

本業が忙しいので本日は短いエントリーです。日経ニュース等によりますと、ようやく会社法改正法案が衆議院で審議入りした、とのこと。なんとか今国会で成立しそうですね。

日経ニュースで法務大臣の答弁が紹介されていますが、立憲民主党の議員の方からの質問(ほとんどの上場会社ですでに社外取締役は存在するが、義務化することの必要性はあるのか?)に対して、大臣は

市場の信頼性を高める観点から、社外取締役の監督が法律で保証されているとのメッセージを発信することは大きな意義がある

と回答した、とのこと。しかし、ほとんどの上場会社に社外取締役が存在する現在、有価証券報告書提出会社に社外取締役を1人以上の選任を義務付けることには「立法事実」はないと思います。これまで、会社法改正にあたっては法改正の必要性を裏付ける立法事実が厳格に求められてきたと思うのですが、「メッセージを発信することに意義がある」ということでも法改正はできるのですね。これからの法改正の必要性判断の前例になるのでしょうか。

しかも法改正によって「社外取締役がいなくなった場合に、果たして取締役会決議は有効に成立するのか」とか「社外取締役を選任しないことによる罰則(過料)は会社に科されるのか」といった「解釈のグレーゾーン」まで招来してしまうわけです。

今後、立案担当者の方から解釈指針のようなものが出るかもしれませんが、納得できる内容でしょうか。おまけにヤフーとアスクルの騒動によって社外取締役の存在が不可欠とされる「被支配会社」に誰も社外取締役がいなくなってしまった、これって社外取締役の監督が法律で保証されているといえるの?…という「負の立法事実」まで出てきてしまいました。

平成26年会社法改正のとき、上場会社等である監査役会設置会社が、社外取締役を置いていない場合は「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明する義務が設けられました。つまり会社法は「企業価値を上げるためには、社外取締役がいないほうがよい上場会社は存在する」ということを認めたわけです。

しかも5年以内に社外取締役義務付けの要否を検証することが附帯決議で求められていました。その検証結果が「立法事実」であることは間違いないわけですから、少なくとも「5年経過して検証したところ、やっぱり企業価値向上のためには一人以上の社外取締役がいなければ企業価値は向上しない、ということを理由付けるコレコレの立法事実が認められた」との説明が必要です。

どうも「気持ち悪さ」を感じます。法改正の審議が進むことは喜ばしいのですが、会社法改正があまり「美しくない」と感じるのは私だけでしょうか。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。