GSOMIA破棄撤回へのシナリオ

日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が22日に終了し、23日に失効する。北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す時、同協定は日米韓にとっても重要な軍事情報を提供する枠組みだが、韓国が一方的に同協定の破棄を表明し、その失効が間近に迫ってきた。

▲閣僚会議で語る文在寅大統領(2019年11月12日、韓国大統領府公式サイトから)

米国はスティルウェル国防次官補(東アジア・太平洋担当)、そしてエスパー国防長官を韓国に派遣し、協定破棄の見直しを強く要求してきた。一方、日本は韓国側の出方を見守り、日本から積極的に協定破棄の撤回を要求していないが、朝鮮半島の安保問題を考える上で、同協定が重要であるという認識は変わらない。

韓国側のGSOMIA破棄を撤回させるために日米韓が舞台裏で交渉しているようだが、最終当事国は韓国だ。「止める」と世界に向かって表明した手前、韓国側は米国側の「止めるな」という圧力に屈して、「分かりました、協定は今後とも守ります」とはメンツもあって言い出せない。日本側から何らかの譲歩があった後、「日本側の要望もあって、考え直した」と説明して、協定に留まりたい、というのがソウルの本音ではないか。

「即位礼正殿の儀」に参加するために李洛淵首相が先月訪日し、その後、 文喜相国会議長が今月5日、東京入りし、日本側にそれとなく打診したのだろう。日本側の立場は明確だ。安倍晋三首相は、「韓国側はまず国際法を守っていただきたい」と繰り返し、それから対話が始まるという姿勢だ。具体的には、元「徴用工」問題で日韓請求権協定の堅持だ。それを一方的に違反した韓国大法院(最高裁)の判決は明らかに国際法違反だ。だから、ソウルは先ず、同問題の判決を破棄してから対話の戸を叩いてください、というのが日本側の一貫した立場だ。

韓国側は協定破棄の理由として日本側のホワイト国除外を挙げ、「わが国を敵対国と見なす日本とは如何なる軍事協定も意味がない」と主張してきた。韓国は「ホワイト国排除の撤回」と「GSOMIA破棄撤回」を交渉テーブルに乗せているが、前者は経済問題、後者は安保軍事問題であり、全く異なった条件を挙げて妥協を模索していることになる。

先日、韓国外交官と会食しながら同協定の行く末を話し合った。外交官は、「予想はできないが、協定が維持されることを願っている」という。同外交官は自分は保守派だと言っているように、軍事、情報分野での日韓協力が重要だという立場だ。彼は、「国同士ではいがみ合っていても、国民の間では対立は少ない。君と僕のように自由に話し合えるではないか」というのが口癖だ。

それでは重要な軍事情報包括保護協定をどうしたら死守できるかだ。同外交官は、「あくまでも個人の考えだが、日本側が旭日旗の掲揚を辞めてくれれば、韓国民も納得できるのではないか。日章旗は問題ないが、旭日旗は韓国民に過去の出来事を思い出させ、辛くなるからだ」と説明した。

ちなみに、韓国議会は9月30日、東京五輪での競技場内に旭日旗搬入禁止措置を要求する案を決議した。「帝国主義侵略の対象になった国々の記憶を呼び起こす」というのが決議の理由だ。

すなわち、日本側が今後、公式の場で旭日旗の掲揚を可能な限り抑制してくれれば、韓国政府も国民に向かって、「日本側の対応を評価し、GSOMIAの破棄を見直したい」と表明できる。日本側は東京五輪の時、旭日旗問題で日韓間の対立が生じることを避けることが出来る一方、韓国側は自国のメンツを守れるというわけだ。「ホワイトリスト破棄の撤回」と「GSOMIA破棄撤回」という交渉から、「旭日旗の掲揚抑制」と「GSOMI撤回破棄」の交換条件に変えるわけだ。

上記の条件は韓国側に都合のいい感じはするが、検討に値するかもしれない。韓国側はメンツを守り、GSOMIA破棄撤回を表明できる一方、日本側は五輪開催時の旭日旗の掲揚を自主的に抑えるという痛みを受け入れることで、韓国側の反日攻勢を抑えることができる効果が期待できる。ただし、GSOMIA終了が差し迫っているから、上記の合意を交渉で文書化する時間はない。日韓首脳間の紳士協定としておくことだ。

日本側が上記のような条件で妥協すれば、国内の保守派から安倍政権への批判が飛び出すことが予想されるから、安倍政権には大きな冒険となる。韓国側は日本側の立場を配慮し、「韓国は東京五輪の成功のため協力を惜しまない」と大統領表明を発表し、日本側に連帯をアピールするなど、礼を尽くすべきだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年11月15日の記事に一部加筆。