空き家増加、土地所有者不明…根本原因は「お金にならない」から

高幡 和也

11月27日付、NHKの報道によると、法務省の法制審議会の部会は、相続する際の登記の義務化や、遺産分割の手続きがなく10年が経過すれば、法定相続分に応じて分割できるようにするなどとした中間試案をまとめることにしたという。

これは、各地で社会問題化している所有者不明土地を減らすための制度づくりの一環だ。土地の所有者が不明になる原因は、相続時に土地の所有権移転登記が適切に行われないことが主な原因であるため、相続時の登記は以前から義務付けすべきだという声があった。

そもそもなぜ相続時に土地の登記名義を変更しないのか。自宅など自己使用の土地は別として、相続時に登記が行われない根本的な理由は、その土地に経済価値を見いだせないことにある。その土地を相続した人間に何の恩恵もなければ、登記費用(登録免許税や司法書士の報酬など)をかけて登記を行う意味など何もないのである。

逆に、相続した土地がその利活用(賃貸、売却など)によって「お金を生む」ならば、相続の登記は積極的に行われるだろう。

※画像はイメージです

このような所有者不明土地が発生する仕組みは、年々空き家が増加していく理由と近似している。

平成30年住宅・土地統計調査によれば、空き家率が最も高いのは山梨県(21.3%)である。その地価動向(令和元年度山梨県地価調査)をみると、価格が上昇した住宅地上位1位の大月市御太刀2丁目と2位の甲府市屋形2丁目の前年比上昇率は「0.0%」で実質横ばいである。

さらに3位の甲府市緑が丘1丁目の前年比上昇率は「-0.2%」と実質の下落だ。また、別荘などの「二次的住宅」を除いて空き家率が最も高いのは和歌山県(18.8%)であり、県内の平均上昇率をみると、前年比で最も高い上昇率である和歌山市でも「-0.4%」となっている。

これらのことを踏まえれば、空き家率と地価動向には一定の相関性があるといっていいだろう。国土交通省のシンクタンクである国土交通政策研究所でもその機関誌の中で、「その他の空き家率の低下幅と地価上昇率との間には緩やかな相関があるように思われる。」とした考察を公表している。
※出典:国土交通政策研究所報第63号2017年冬季『首都圏における「その他の空き家」についての一考察』

つまり、空き家率が高い地域は「不動産が流通しづらい地域」である可能性が高いということだ。もちろん、単純な空き家率や地価の上昇率だけをもって土地の流動性を測ることは出来ないが、空き家率の高さは不動産取引における「需給バランスの指標」にならざるをえないだろう。

土地の所有者が不明になる理由は主にその土地に経済価値を見いだせないことだが、空き家の増加についても同様であり、空き家の所有者は経済価値を見出せなければ多額の費用をかけてまで空き家を取り壊したり整備したりする意味などない。

当然、自己の所有権が及ぶ空き家や所有者不明土地等が地域、社会に損害を与えることは回避すべきだし、所有者はその管理責任を負うべきだ。しかし、その不動産が親や親族からの相続で「否応なく」取得したものならどうだろうか。そしてその相続不動産が、その価値以上の管理費・修繕費を生む「負債」だとしたらどうだろうか。

冒頭で触れた法制審議会の部会では、相続不動産の「所有権放棄」も中間試案に盛り込む方針らしい。

不動産の所有権放棄が実現すれば、他の財産と共に負債を抱える不動産を無理やり相続しなくてもよくなる。放棄できる要件については慎重な議論が必要だが、放棄要件が整えば、日本版ランドバンクも現実味を帯びるだろう。

経済価値が見いだせない不動産は、単に所有者にとってだけではなく社会にとっても「お金にならない不動産」である。不動産の所有権放棄や日本版ランドバンクが実現しなければ、経済価値が見いだせない不動産がもたらす諸問題が包括的に解決されることはないかもしれない。

日本が本格的な人口減少を迎えるのはこれからなのだ。経済価値を見いだせない不動産が本格的に増えていくのもこれからなのである。


高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。