昨日フジテレビのワイドショー「とくダネ!」を見ていて、朝から涙してしまうようなニュースを目にしました。
そのニュースとは、まだ日本人も記憶に新しい、11/30のロンドン橋での襲撃事件。
ロンドン橋で襲撃、5人死傷 射殺された容疑者はテロ罪で有罪歴(BBB NEWS JAPAN)
死亡2名、負傷者3名という重大事件を起こし、消火器などで応戦した市民に取り押さえられた後、自爆装置を身につけていたとのことで、警官に射殺されました。
犯人は、イギリスのイスラム過激主義組織「アル・ムハジルーン」に所属していたらしいのですが、2012年に証券取引所の爆破計画に関与した罪で禁固8年の判決を受け、2018年12月に仮出所していました。
私も、この事件が報じられ心を痛めておりましたが、犯人の過去から、無差別テロが起きたのだと思っておりました。
ところが、この事件にはどうやら複雑な背景があるようなのです。
犯人は昨年、仮出所をした際に、リハビリプログラムを受講するように義務付けられました。
おそらく社会復帰のための認知行動療法などが行われたのだと思いますが、このプログラムを犯人は受講しています。受講中の写真も公開されました。
そして、今回亡くなられたお二人というのは、このリハビリプログラムを提供するスタッフだったというのです!
なんと、この事件は無差別テロを実行したのではなく、顔見知りによる犯行だったんですね。
動機に何があったのかはわかりませんが、社会復帰に手を貸そうという、いわば自分の味方になる人に対する犯行ということで非常に驚きました。
そして事件後、イギリスのジョンソン首相は即、今回の仮出所の判断を避難し、「我々のマニュフェストでも言っているが、重罪や暴力犯罪の刑罰を厳しくしたい。」とコメントを発表したんですね。
・・・と、ここまでは言い方は悪いですが、よくあるパターンです。
ところが、このコメントに御遺族が「息子の信念を貫き私も厳罰化は望まない」とコメントされたのだそうです。
このコメントには、胸打たれました。
おそらく亡くなった方々は、人は変われると信じ、そしてその信念で尽力されてきたのだと思います。
今回の様な事件も起きてしまいましたが、おそらく実際にプログラムで人が変わっていく様を経験し、その姿を見ることで、勇気づけられ、希望も持っておられたことでしょう。
そして何よりも、人を愛し、人が好きで、人を信じていたし、社会全体の福利を見通す目があった方なのだと思います。
厳罰化というのは、結局の所起きてしまったことの裁きでしかありません。
それでは、犯罪は決してなくならないのです。
考えて見ればお分かりかと思いますが、児童虐待などの罪を犯す人が、他の人の児童虐待の事件を見て「自分はもう止めよう」と思うでしょうか?
そもそも「自分の行為はしつけであって、虐待ではない」と、思いこんでしまっているのが虐待事件が減らない一因でもあります。
厳罰化だけは、ますます顕在化できなくなり、巧妙な潜在化が進みます。
だとしたら、できるだけ早い時期に、問題の芽を察知し、救いあげられるシステムを作るべきではないでしょうか?
そのための人員の強化や、プログラムの開発、社会への啓発など、やれるべきことは沢山あるはずです。
なんらかの闇を抱えた人たちが、その恨みや憎しみを凶悪事件としてぶつけてしまう前に、マイノリティとして追いつめられている人、生活に困難をきたしている人、社会の偏見で苦しむ人、こういう立場で孤独や孤立化してしまう人を少しでも減らし、誰にでも基本的な人権や経済的基盤が与えられる、仕組みや理解が必要ではないでしょうか。
多様性がどれだけ内包化できるか?
それが結局の所、社会全体の治安と平和をもたらすのではないでしょうか。
このご両親の無念さは、想像を絶すると思いますが、それでもわずか25歳で人を信じ、熱い志を持ったまま亡くなられた息子さんを心から尊敬し信頼されていたのだと感じます。
現在この問題をめぐり、ジョンソン大統領率いる保守党の厳罰化路線と、コービン党首率いる労働党の反厳罰化路線で論争が起き、今月12日のイギリス総選挙が注目が集まっているそうですが、御遺族はここでも「息子の死を政治に利用しないで!」とコメントを出されました。
私も、政争の道具ではなく、調査、研究、そして真の議論が深まることを願います。
そして、それは日本社会においても願っています。
田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト