モスクワで先月開催されたVTB主催のフォーラム「Russian Calling Investment」に出席したプーチン大統領は「この先10年もすれば欧州連合(EU)はソビエトが解体したのと同じような道を辿る」と述べた。
その最初の引き金となるのが英国のEUからの離脱であることを指摘し、遅かれ早かれそれに続いて他のEU加盟国が同じ道を歩むようになり、2028年頃には東欧のEU加盟国の一部は十分な経済成長を遂げてEUからの補助金を受けられなくなる。逆に他の加盟国を支援するために補助金を提供せねばならなくなる。その時点で英国と同じようにEUからの離脱を望むようになる、とも語った。(参照:elmundo.es)
しかし、プーチンはそれを待たずして、EU解体の可能性があれば、それを支援すべく資金を提供したりしている。例えば、フランスのマリーヌ・ルペンが率いる反EUを掲げる国民連合やイタリアのマテオ・サルビニの同盟に資金を提供したというのは明らかになっている。この両党は現在のEUの存在を否定している政党である。
プーチンが2008年に大統領から首相になってG8に出席した2011年に、リスボンからウラジオストックまでを単一市場にするユーロアジア連合を提案した。しかし、それはそのサミットに出席した各国の首脳は受け入れなかった。それ以来、プーチンはEUを解体させる方向に向かっている。ロシアの国境を隔てて5億人の経済・軍事ブロックが存在していることをプーチンは好まないのである。
しかも、地中海沿岸のEU加盟国スペイン、イタリア、ギリシャのどれかがロシアとの関係を深めてロシアがそこに軍港を開設できる可能性を常に求めている。その意味でもロシアは特にイタリアとギリシャとは常に親密な関係を維持して来た。(参照:elpais.com)
プーチンはスペインの場合、カタルーニャの独立への動きに強い関心をもっている。カタルーニャが共和国になればロシアはそこに軍港を開設できる可能性も出て来るわけだ。カタルーニャの独立への動きにロシアがどこまで介入していたのか明らかにすべく、現在スペインのテロなどを専門に裁く高等裁アウディエンシア・ナシオナルでガルシア・カステリョン判事の指揮のもと捜査が進められている。ロシアの諜報員がバルセロナに滞在していたことが確認されたからである。
捜査の焦点は、一昨年10月に実施された独立を問う住民投票の実施日の前後に置かれた。その投票が実施された10月1日を挟んだ前後にロシアの諜報グループ29155ユニットの存在が明らかにされているからである。
1991年にソビエトが崩壊した際に諜報機関KGBは解体されたが、軍の諜報機関GRUはそのまま存在し続けた。29155はGRUの中のエリート集団で、2018年に英国でロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリを暗殺しようとしたり、2016年にモンテネグロでクーデターを組織しよとしたのもこのユニットである。(参照:elpais.com)
スペインでのこれまでの捜査から明らかになっていることを以下に説明しよう。GRUの29155ユニットの諜報員がセルゲイ・フェドトフという偽名を使ってスペインに2度入国していること。彼の本名はデニス・セルゲイエフということも判明している。
フェドトフは2016年11月5日にバルセロナに到着し6日間滞在したあとチューリッヒ経由でモスクワに戻っている。その次の訪問は2017年9月27日から10月9日まで滞在してジュネーブ経由でモスクワに戻った。住民投票が実施されたのは10月1日だった。その後の彼のスペインへの訪問は記録にはないが、セルゲイ・スクリパリの暗殺未遂事件の数日前にロンドンを訪問したことが明らかになっている。
今年5月にはドイツの諜報機関がカタルーニャの独立への動きをロシアが支援していることに懸念を表明した。そこで、ドイツ憲法擁護会のハンス・ゲオルグ・マッセン会長はベルリンで開催されたシンポジウムを利用して「ロシアはカタルーニャの過激派組織を使って(カタルーニャ住民の)世論に影響を与える為に秘密活動している」と述べ、「入手した情報によると、カタルーニャの独立派のために広報活動をしてそれを支援する意向のようだ」と表明したのである。(参照:elpais.com)
スペイン国内では治安警察がカタルーニャの独立支持派のビクトル・テラデーリャスがロシアと繋がりをもっていたことを掴んでいた。テラデーリャスは嘗てカタルーニャの独立を主張していた民主集中党(既に解党)の外交書記長だった。
カタラン紙『El Periódico』(11月21日付)が報じたところによると、彼は2017年にモスクワでプーチンに近い当時議員だったセルゲイ・マルコフと3度会見している。
その際に、テラデーリャスが「ロシアがカタルーニャの独立を支援する代わりにカタルーニャはロシアのクリミアの併合を承認する」と提案したことがマルコフから同紙に伝えられたそうだ。しかし、マルコフはクリミアはもともとロシアの領土であるとしてテラデーリャスの提案は受け入れなかったことも同紙が明らかにした。
(参照:elperiodico.com:elperiodico.com)
ガルシア・カステリョン判事の指揮のもとに進められている捜査はこれからも続く。
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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家