地方創成を訴える安倍政権は長期プランでこの問題をとらえており、2019年度(20年3月)でその第一期5年を終了します。大ビジョンとしては人口減少を克服(2060年でも1億人の人口を維持)、人口減少の歯止め(出生率1.8を目指す)、東京一極集中を是正、成長力確保(2050年でもGDP1.5-2%)となっています。
その第一期の成果については様々なメディアがそのうち、取り上げることになろうかと思います。
人口減の問題については想定をはるかに超える出生者数の減少が衝撃的であります。国立社会保障人口問題研究所が発表した2019年の出生者数見込みは86.4万人と同研究所の17年4月の予想より2年ほど早まっています。出生率は2018年で1.42であります。
この「低迷」ぶりに対して「若い女性が足りない」というもっともらしいコメントがついているわけですが、そんなことは人口動態をみればわかりきっていることで同研究所の予想は事実を述べているのか、事実を公表すると目も当てられないので鉛筆を舐めたのか、はたまた地方創成プランの第1期目の中で格好をつけた統計を発表したかったのかと思わず勘繰りたくなります。
一方、日経が興味深い記事を掲載しています。「遠いコンパクトシティー 止まらぬ居住地膨張」で人口減が進むのに地方に新しい街が生まれ、人口がばらけているというわけです。理由は地方の市町村や開発業者が「人口の奪い合い」をしているというのです。その結果、作戦が成功したところには突然街が生まれ、人口が急増し、インフラがひっ迫する事態が生じているというのです。まるで中国の地方政府の話のようですがこれは日本でも起きているのです。
これを地方創成の成果とするのでしょうか?長く開発事業に携わってきた私にはしっくりしません。一般的に街の創成は30-40代が買いやすい価格の新築の戸建てが提供されることをマーケティングのターゲットとしています。
例えば神奈川県の戸塚や保土ヶ谷の丘の上は戸建て住宅が密集していますが、これらは70年代から80年代に開発されたものです。駅からバスで15分、そこから更に歩いて5-10分というところも多いのですが、その時代にはそれでもマイホームが欲しかったのです。今では高齢者の丘であります。
同様に〇〇ニュータウンもことごとく世代交代に失敗しています。理由の一つは交通の便が悪いのであります。多摩ニュータウンをはじめ港北、千葉…といろいろありますが、総じてダメ。もっと言えば60年代に開発した団地も再開発が進まず苦戦しています。
東京板橋の高島平は団地1階部分の店舗が生命線でこれがないとどこで買い物するのか、というエリアであります。そして言わずと知れた孤独な高齢者もたくさん住むところであります。そこに最近は中国人が「入植」しており、例えば西川口の団地は驚くなかれ、ほぼ中国化し、店舗も中華料理で至る所に中国語表示となっています。
人口の奪い合いによる新しい街の創成は時代の要請を終えた古い街をどんどん殺すことにもなるのです。今年行った香川県高松市はかつて日本有数のアーケード街があったところでも知られています。ところが県は市街化調整区域を外し、農地を宅地に変えていきました。これにより新しい道路と住宅が薄く広く街に拡散しているため、街の顔がピンポケし、アーケード街は閑散としています。これが地方創成なのでしょうか?
人間の行動心理学からすると若い人は街に向かうのが自然であります。UターンやJターンは私が学生の頃から言われていたことですが、基本的には流れに逆らう動きであります。そして街に住まない理由がない限り街から離れられなくなります。理由は簡単で、人との付き合いやコミュニティがあり、モノや人を選べる選択肢を求めるからであります。
その点では個人的には都道府県の中心都市の強化とそこを基点とする「城下町化」がワークすると考えています。経済を効率的、かつ活性化させるには人口密度が必要です。政府はこの密度が生み出す経済を研究するべきでしょう。
例えば私が住むカナダ バンクーバーの人口密度は東京の10分の1です。よってビジネスの成否が明白に出てしまいやすく、起業してもなかなか黒字にならず、政府は中小企業への税制の恩恵を振り向けるなど苦心しているわけです。
こう見ると単なる地方創成ではだめでもっと的を絞り込んだ計画にすることが求められます。また例えば一戸当たりの敷地の最低サイズを決めて広い居住空間を作ることでクオリティオブライフを押し出すのも一手でしょう。単に地方、地方と叫んでもダメでどうしてもそこに住みたいと思わせる魅力をどう作るか、これが各都道府県に課せられた課題だと考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月29日の記事より転載させていただきました。