声を出せ、官僚諸君。

中村 伊知哉

ちかごろ政府の審議会や研究会では、役所は局長クラスが委員とやりとりしています。
ぼくの現役時代はそんなのは課長補佐の仕事でした。
補佐―課長―審議官―局長、民間からみて3階級上がったというか、役所の格が3段落ちたというか。

(写真AC:編集部)

10年前の民主党政権で政治主導が叫ばれ、官僚は引っ込んだ。
国会でも委員会でも答弁しなくなりました。
なのであちこち混乱しました。
自民党政権に戻り、今度は官邸主導となって、若干官僚の出番が増えましたが、やたら上司が出てきて、なお口数は少ないままです。

政治主導となる10年前、98年にも厄介な事件がありました。
大蔵省ノーパンしゃぶしゃぶ。
官僚4人が逮捕され自殺者も出し大臣も次官も局長も辞めた。
公務員倫理法ができて、霞が関が自らの手足を縛り、官民が分断されました。
官僚が無口になったのはそのころからです。

だけど、それでは困ります。
国力が下がり、逼迫から脱する契機がつかめぬ一方、AIはじめテクノロジーは新次元に突入し、世界は対立している。
かつて「強すぎる」と嫌われた官僚が凹んだままでは。
ここで再起動をかけて、持てるパワーを示していただきたい。

会議で座長など引き受けますと、民間の委員たちの意見を伺い回るのですが、それより事務局=官僚に答えてもらいたいシーンがしばしば。
だって、その分野で一番の専門家集団なんだもん。
一番、情報が集結する組織なんだもん。
並みの学者じゃ太刀打ちできないの、知ってるじゃん。

(現役のころ、新人から課長補佐まで、選りすぐりの委員の先生方より、担当のオレのほうが詳しくて頭も整理されている、と自信があったので事務局を務めていました。委員の質問には全部答えてやる、と構えていました。いまの官僚諸君にもそういう自負はあるはず。)

ところが今、官僚諸君は会議で配るパワポ資料の作成に忙しい。
細かく見栄えのよい紙づくりに時間と身を削っておられる。
先日ある審議会を傍聴したら、学者がパワポ資料の誤字1字を指摘し、事務局が陳謝していました。
アホか。
それは学者の仕事でも官僚の仕事でもない。

でもそうやって互いに無駄な仕事を作り、コンプラのハードルを高め、官僚は体を壊し、ますます無口になる。
やめよう。
官僚諸君、声を出そう。意見を言おう。頼みます。
しかも、昨今の政策課題はどれも縦割りでは解けません。
ほぼ省庁横割りの議論を要します。

官僚諸君が霞が関の内側で大声を上げているのは存じております。
夜な夜な協議し、知恵と情報をぶつけ合い、政策を形作っておられる。
審議会や委員会にはその結果が示され、民間委員がチョロっとコメントして、政策となる。
ならば、その霞が関内の議論を、オープン化すればよい。

GAFA対策はIT本部、知財本部、経産省、総務省、公取。
海賊版対策はIT本部、知財本部、経産省、総務省、文科省、法務省、警察庁。
eスポーツ振興はIT本部、知財本部、経産省、総務省、文科省、消費者庁、警察庁。
その官僚のみなさんが議論して政策を作る場を見たい。

現在は、民間有識者がオープンで議論した結果を官僚が吸い上げて、霞が関内で政策にする仕組み。
その前に、官僚がオープンで議論した結果に民間有識者がコメントを施して政策を編んでいく。
そのほうが現状よりよほど効率的で生産的ではないですかね。
官僚のパワポ資料の誤字チェックしているよりも。

試しに一度、さほど重くないテーマで、課長級にニコ生討論してもらったらどうですかね。
例えば文科省、経産省、総務省に教育IT化政策を論じてもらうとか。
財務省の悪口合戦になるかもしれませんけどw


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。