軍の誤射を認めたイランの株上昇?

イラン軍は11日、「8日起きたウクライナ国際航空機墜落は軍の人為的ミスによるものだ」と表明し、謝罪した。旅客機墜落直後、イラン当局や国営メディアは、「事故は技術的欠陥によって起きた」と述べていたが、イラン側の説明が余りにも早急だったこともあって、欧米航空関係者から不審に受け取られていた。

▲ウクライナ国際航空機撃墜事故の犠牲者への救済を表明するイランのザリーフ外相(2020年1月12日、IRNA通信から)

イラン軍の説明によると、イラク駐留の米軍基地に弾道ミサイルを発射した直後だったこともあって、革命防衛隊は米軍の反撃を恐れ、防空システムを最高レベルに設置していた。そこにテヘラン空港から離陸したウクライナ国際航空機がレーダー網にキャッチされ、それを敵機と勘違いした革命防衛隊が地対空ミサイルを発射させたというわけだ。

革命部隊の空軍司令官は、「防空システムで不審な物体を見つけた将校が中央司令部に対応を聞いたが、通信が難しく、返答がない。事態は緊急だったこともあって、将校が発射を決めた」と説明している。すなわち、誤射となった背後には、防空システム担当将校と中央司令部の間の通信欠陥があったという。

イラン軍が誤射を認めざるをえなくなったのは 事故後、欧米メディアでは地上から発射した光る物体がウクライナ機に命中、航空機は即燃えだして地上に撃墜するシーンを映し出したビデオが放映されたこともあって、弁解の余地がなくなったからだろう。イラン軍は「意図はなかった。ミスをした関係者を厳しく処罰する」と述べている。

ロウハ二大統領もイラン軍の誤射発言にショックを受け、「考えられない過ちだ」と指摘し、誤射の責任者を処罰する意向を明らかにした。墜落事故で176人の搭乗員、乗客が全員死亡した。57人の犠牲者を出したカナダのトルドー首相は「事故の全容解明」をイラン側に要求、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「犠牲者とその関係者への謝罪と賠償」を求めている。

「イラン軍が地対空ミサイルの誤射を認めた」というニュースが報じられると、「考えられない人為ミスだ」という批判が聞かれる一方、「イランは前日の発言を撤回し、過ちを認めたことは評価すべきだろう。ウクライナ東部の親ロシア武力勢力がロシア製の地対空ミサイルでマレーシア航空機を撃墜させたが、プーチン大統領はロシアの関与を認めず、一切の謝罪表明を拒否してきたのとは好対照だ」という意見がネット上で囁かれている。「誤射を認めたイランはロシアより正直だ」というわけだ。

参考までに、6年前のマレーシア航空機の墜落事故をまとめる。

2014年7月17日、オランダのアムステルダムのスキポール空港からマレーシアのクアラルンプールに向かったマレーシア航空17便がウクライナ東部上空で撃墜され、搭乗員全員298人が犠牲となった。その時、ウクライナ東部の親露武装勢力がロシアから提供された地対空ミサイル「ブーク」を発射して撃墜したことが明らかになった。

事故を調査したオランダ安全委員会は2015年10月、最終調査報告を公表したが、その中で「事故はロシア製の地対空ミサイル『ブーク』によって撃墜された」と結論を下したが、プーチン大統領は全ての批判を一蹴し、謝罪も賠償もしていないのだ。

もちろん、イラン軍が人為的ミスを認めたとしても、犠牲となった176人の命を取り戻すことはできない。クリーンな戦争や紛争などは存在しない。あるのはやりきれないほどの残虐さと虚しさだけだ。

武力紛争では人為的ミスはつきものだ。公表されなかった誤射も過去、多くあったはずだ。米軍が発射した巡航ミサイル・トマホークが病院に命中し、多くの患者が一瞬のうちに亡くなった出来事を思い出すだけで十分だろう。

ウクライナ機撃墜事故がイラン革命防衛隊の人為的ミスが原因だったことが明らかになったことで、イラン国内で革命防衛部隊への批判、その反米路線を支持するハメネイ師への批判が出てくることが予想される。それを事前に防ぐ意味合いもあってか、イラン国営メディアは、「誤射報告を受けたハメネイ師が誤射の経緯を公表するように指令した」とわざわざ内部情報を報じている。

外電によると、テヘランで11日、墜落の事実を隠蔽していたとして約1000人が政府への抗議デモを行っている。

看過できない点は、米イラン紛争が激化しているにもかかわらず、民間機のイラン上空飛行を禁止しなかったテヘラン管制当局の責任だ。弾道ミサイルや地対空ミサイルが飛び交う紛争空域に民間機の飛行を認めたことが今回の事故となったわけだ。

ちなみに、オーストリア航空は同日、テヘランに向かっていたが、危険と判断して急遽、方向を変えて、近くの空港に着陸した、というニュースが流れていた。緊急時の危機管理は重要だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。