静学サッカーの分析 〜 選手権で優勝できた本当の理由

Rhythm
Technique
Intelligence

「サッカーの楽しさと感動を追求し、勝利を目指す」

これが、今回の全国高校サッカー選手権大会で優勝した静岡学園サッカー部を長きにわたって支える理念である。ユースチームを含めたこの年代の絶対王座の青森山田高校を0-2から、前半ロスタイムに追いつき、その後2点を加えて、鮮やかに逆転。後半はテクニックでドリブルとパスでポゼッションで圧倒した。見事な逆転劇である。全国の高校サッカー部の頂点に、単独で初めて立った。

「良い内容で勝ち切らないと自分たちも満足しない」「人を魅了するサッカーする」という選手たちの声が、その理念の浸透を物語る。この理念に憧れて集まった高校生が毎日秒単位で努力した結果、本当におめでとうと言いたい(青森山田をはじめ全国の高校サッカー選手たちにもご苦労様)。

この勝利、静学のサッカーのぶれてない理念と人財育成の勝利といっても過言ではない。

静学スタイル

テクニックで圧倒し、美しく勝つサッカーを体現し、皆がその姿に魅せられる。私もそんな1人だ。

私事だが子どもの頃から静岡の高校サッカーに魅せられたものとしては、静岡学園のテクニックは尋常じゃないと思っていた。見ていて面白い。テクニックにざわつくし、あんなプレーができたらな~と思って憧れた。静学に魅せられたのは前回の優勝時以来だが、当時の井田勝通監督(現総監督)、スタッフの活動をウオッチする中で見えてきたものがある。

やはり、静岡学園のサッカーの強さは、ドリブルとショートパス、ボールキープを支える個々の技術・テクニックである。それは、特に、テクニックはこのビデオにある。

井田勝通前監督の「100万回触れ」というとおりに、ボールを扱う技術を大事にする練習を行っている。静岡市の谷田の練習場を見に行ったことがあるが、夜遅くまで選手がボールを蹴っていたことを覚えている。

この井田さんというのがとっても面白い。慶應卒の元銀行員、知性に溢れて、哲学的なことを言う、まさに、指導者、育成のプロ。彼の言葉を紹介しよう。

「選手たちの心に火をともすには、まず指導者が高い志を持って、燃えてないといけないんだ」
「常識を打ち破れ」「独創性をとことん追求しろ」
「真剣さのみがヒトを人とし、努力と汗のみぞ天才を作る」
【出典】「静学スタイル」より

この型破りの指導者が、川口監督をはじめ多くの指導者を育てた。

静学の試合を見ていると残念なのは勝てないことだ。とても素晴らしい選手を輩出する一方、全国レベルで結果はでなかった。ボールは圧倒的に支配するが、一発カウンターで敗れるケースが多かったとも思う。特に井田監督の時は、スタメンがころころ変わっていた。

今年度のインターハイの決勝では清水桜が丘に、昨年度の選手権予選では浜松開誠館に、負けてしまったが、内容は静学優勢であった。ちょっと前になるが、川崎フロンターレに入団予定の旗手怜央選手の世代、川崎フロンターレで活躍する大島僚太選手の世代はボールキープでは圧倒していた。

「PKになったら負けなんだ」という声が出るほど、だ。

静学の育成システム

ドリブル主体で個人をはがし、突破する。難しければ、パスで崩す。そうした美しく、魅力的なサッカーを見せる、その確固たる哲学は、多くの人をひきつける。現在では260名近くの部員がいるらしい。そこには長年にわたって築き上げた選手輩出システムを見ることができる。決勝のメンバーを見てみよう。

【決勝メンバー】(背番号、名前、学年、出身チーム)

【GK】
17 野知滉平 2年 清水エスパルスJrユース
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【DF】
4 田邊秀斗 2年 奈良YMCA
3 阿部建人 3年 シュートJrユースFC(神奈川県)
5 中谷颯辰 3年 大阪市ジュネッスFC
15 西谷大世 3年 セゾンFC(滋賀県)
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【MF】
18 藤田悠介 3年 セゾンFC(滋賀県)
16 井堀二昭 3年 J-FIELD津山SC(岡山県)
8 浅倉廉 3年 川崎フロンターレU-15(神奈川県)
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【FW】
10 MF 松村優太 3年 大阪東淀川FC
9 FW 加納大 2年 静岡学園中
14 MF 小山尚紀 3年 セゾンFC(滋賀県)

少し解説しよう。

◆セゾンFC(滋賀、大阪):OBで元Jリーガーの倉貫一毅選手のお父さんである岩谷さんが滋賀県で開始したスクール。テクニックや個の打開力向上を育成目的にしている。野洲高校優勝時のメンバーも多い。
◆大阪市ジュネッス:街クラブの名門。フットサルでは非常に強い、
◆東淀川FC:鹿島アントラーズの名古新太郎選手などもOB。
◆千里丘FC:多くの選手をユースチームなどに送り込む街クラブ
といった関西の街クラブからのルート

◆シュートFC
◆エスポルチ藤沢
などのOBが関係するチームからのルート

そして、静岡学園中。

さらに全国のチームから選手がやってくる(声がけもあるみたいだが)。全国には、静岡学園サッカー部の理念を共有するOBがたくさんいて、サッカー少年を育てている、そして、そこから静学に集ってくるのだ。

川口監督が「本当にしびれました。先輩たちの努力、苦労が報われたのかなと思う」と言った言葉はまさにその通りだと思った。

それにしても凄いのは、昨年度チームでレギュラーで出ていたのが松村選手、浅倉選手くらいであること。2018年度の静岡県予選の大会ガイドのチーム紹介を見ても、今大会で活躍した3年生の名前は出てこない。

3年計画でチームづくりをすることもなく、毎年、今回のレベルの選手が出てくるのだ。川口監督が「例年のチームに比べて技術は劣る」というほどなのだ。

それだけの競争と層の厚さがある。

人財育成の努力

前回の優勝時は、長髪や茶髪、ミサンガをつけたり、見た目がチャラいメンバーが揃っていて、それはそれで魅力的であった。しかし、その後、監督交代を経て、かなり真面目なチームになった。

井田総監督の知的水準や自由な思考にプラスして、川口監督をはじめ、静学OBのスタッフの方々の「人財育成」の凄さを感じる。寮での訓練、徹底的に人格を磨くこと、名言を通して人間性を学ぶこと、大人の私から見てもなかなかすごい教育をしていた。有名私立大学に進学する選手がレギュラーメンバーにいるなど、勉強も重視する。

理念・哲学が人をひきつけ、その高校生が徹底的に練習し、同時に、高校生の人格を磨いてもらう。理念・哲学を掲げたチームの優勝に、日本サッカーの明るい未来を感じる。

西村 健
日本公共利益研究所 代表・主席研究員