AI美空ひばりで考えさせられる、「死者の所有」問題

木下 斉

大晦日の紅白歌合戦でのAIで作られた美空ひばりの歌が放送されていましたが、それで様々な議論が巻きおこっていました。まぁ個人的には違和感がとてもありすぎて、なんというか見ては行けないものを見てしまったというか、過去にも映画とかマンガとかでも死者を蘇らせるというテーマはありました。
※編集部注:動画はNHKスペシャル公式YouTube

が、何かそういう墓荒らしのような感覚というか、そういうざらっとした感覚を覚えたほうです。もちろん技術的にはああいうものができるというのはすごいなと思いつつも、実在した人物が再現され、操作されるということは本当にあってよいのか、ざわざわするところです。

先週末に放送されたロンドンブーツ1号2号の田村淳newsclubを聞いていたら、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の中島岳志さんが、「死者の所有」という表現で問題提起していました。

確かに美空ひばりという死者を自由に使うというのは、生前の個人では起こり得ない話ですよね。奴隷でもなんでもなく、基本的人権が保護され、その人が拒否することを強制して何かを行わせるということは生きている間には認められないが、亡くなった後にこの死者である個人を所有するがごとく、演出して本人の意思も何も関係なく言葉をしゃべり、歌を歌う。そして周りの人はその作られた美空ひばりのカタチをしたものを美空ひばりのように感じ、感動する。そしてビジネスがそれで成立していくというのがあるわけです。

しかしビジネスのみならず、ラジオでも触れられていたようになにかの宗教家であったり、政治家であったり、王室であったり、そういうものがなくなった後にこういう使われ方をして扇動に利用され、社会的問題を引き起こす可能性は十分にありえるなと思います。AI美空ひばりがどうしたということだけでなく、今後の社会的な利用については色々と慎重にみていく必要があると思わされたところです。

人は常に死と向き合い、生きてきました。自らの死、親しき人の死、様々な死と向き合う中で生きてきたものです。死者を所有し、利用することは誰によって許諾されるのか。非常に倫理的、哲学的問題でもあり、技術だけでクリアできる物事ではないと思わされます。

まぁ地方ネタとかでも地元有名人をAIで復活、みたいなのなんか軽いノリとかでやりかねないなーと思うので、ちゃんと考えて欲しいなと思います。笑


木下 斉  エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
1982年生まれ。エリア・イノベーション・アライアンスなど。経営とまちづくりが専門。高校一年から補助金に頼らない地方事業開発に参加している。


編集部より:この記事は、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、木下斉氏のnote 2020年1月22日の記事を転載させていただきました。今回は無料記事からの転載でしたが、有料記事では、高校生の頃から補助金に頼らずに地方事業開発に取り組んできた豊富な経験をもとに、ほかにはない木下氏の地域活性や社会問題への鋭い考察をお読みいただけます。

木下斉 公式note