「スーパーマン」の原作者はユダヤ人

スーパーマン(Superman)を知らない人はいないだろう。「空を見ろ、鳥だ、飛行機だ、いや、スーパーマンだ」というセリフをワクワクしながら見たり聞いたりした人も多いのではないか。少なくとも、当方はスーパーマンをテレビで視て心を躍らした一人だ。そのスーパーマンの原作者ジェリー・シーゲル(Jerry Siegel)が亡くなって28日で24年目を迎える。

▲「スーパーマン」の原作者ジェリー・シーゲル(ウィキぺディアから)

シーゲルは1914年10月17日、米オハイオ州のクリーブラントに生まれた。第1次世界大戦勃発の年だ。彼は1938年6月、学友のジョセフ・シャスター(作画担当)と共にスーパーマンを初めて世に出した。スーパーマンは発表直後からアメリカ国民の心をとらえ、大ヒットとなった。

スーパーマンが世に出た1938年は、ヒトラーがナチスドイツ軍を率い台頭してきた時だ。2人のユダヤ系米国人(シーゲルはリトアニア系ユダヤ人,シャスターはトロント生まれのユダヤ人)が架空の惑星クリンプトン星から地球にきたスーパーマンを生み出したわけだ。

スーパーマンの本名はカル・エルというヘブライ語名だ。カルは「速い」、「エル」は神を意味する。独ミュンヘンでユダヤ歴史を教えるミヒァエル・ブレンナー教授は、「ユダヤ小歴史」という著書でシーゲルがスーパーマンを生み出したことに言及し、「米国のエンターテーメント界でユダヤ人が至る所で働いている。ユダヤ人なくしては米国のエンターテーメントは存在しない」と証言している。シーゲルとシャスターが生み出したスーパーマンはバットマンやスパイダーマンに先駆けて米国民の英雄となった。

興味深い点は、スーパーマンのプロットだ。ユダヤ人民族の歴史と重なる部分が少なくないのだ。スーパーマンは惑星クリンプトンで生まれたクリンプトン人だ。その惑星が悪者に乗っ取られ、危機に瀕したために、父親が救援カプセルに乗せて脱出させる。ここまで聞くと、旧約聖書のモーセの話を思い出す人がいるだろう。エジプトの王パロの追求から逃れるために、モーセの母親が幼子のモーセを籠に入れて河辺の葦に隠した話と酷似している。

地球では子供のない家族がカプセルを見つけ、その中にいた赤ん坊を引き取る。そこでスーパーマンは普通の子供として成長していく。ある日、自分がクリンプトン星のクリンプトン人であることを知る。クリンプトン星では重力が強いが、地球の重力は弱いので、彼は空を飛び、さまざまなスーパーパワーを発揮し、困っている人を助け、活躍するわけだ。

当方はブレンナー教授の著書でスーパーマンの作者がユダヤ人であったことを初めて知って、正直言って驚いた。ユダヤ民族の歴史は民族の解放者、メシアの降臨を待ち続ける民族だ。その民族の出身者、シーゲルとシャスターがスーパーマンを生み出したわけだ。深い繋がりを感じざるを得ない。

スーパーマンが世に登場したのは1938年だ。ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺がが静かに進行してきた時代に、シーゲルはスーパーマンのアイデアを得たのではないか。ユダヤ民族が自分たちの民族を救ってくれるスーパーマンのような存在を願っていた時代だ。

スーパーマンから1年遅れの1939年5月に初登場したバットマン(Batman)にはスーパーマンのような歴史的なプロットはない。ボブ・ケインとビル・フィンガーが創作したバットマンの主人公ブルース・ウエインは幼少時代に両親が殺害されたことから、トラウマに悩みつつ、悪に復讐していくストーリーだ。バットマンは1966年にテレビ放送され、1989年に映画化されることで人気を不動なものとした。

スーパーマンやバットマンより遅れ、1962年8月に初登場したスパイダーマン(Spider-Man)の主人公は両親を失った孤児ペーター・ベンジャミン・パーカーを主人公にした若者の物語だ。夢や失望、孤独や喜びなどを体現した1人の若者がそのスーパーパワーでヒーローとなっていく。

スーパーマン、バットマン、そしてスパイダーマンの3人のスーパーヒーローのプロットはそれぞれ異なるが、それらの原作者、クリエーターはユダヤ系米国人が関わっている。スーパーマンの原作者シーゲルはリトアニア系ユダヤ人、シャスターはトロント生まれのユダヤ人、バットマンのクリエーターのボブ・ケイン(Robert Kahn)は1915年生まれ、東欧系ユダヤ人の血をひき、原作者ビル・フィンガーは1914年生まれ、オーストリアから米国に移住したユダヤ人家族出身。またスパイダーマンの原作者スタン・リーは1922年生まれ、ルーマニア系ユダヤ人だった、といった具合だ。

スーパーヒーローを生み出した原作者にユダヤ系が多いのは、ユダヤ民族の血の中にスーパーマンのようなメシアの到来を願うDNAが潜んでいるからではないだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。