知財戦略の新ステージが始まりました

知財本部にて「構想委員会」がスタートしました。

ATカーニー梅澤高明さん吉本興業大﨑洋さんテレビ東京太田勇さん筑波大落合陽一さんドワンゴ川上量生さん国立情報学研究所喜連川優さん松竹迫本淳一さん事業構想大学院大学田中里沙さんホリプロ堀義貴さんNTV宮島香澄さんREADY FOR米良はるかさん東大渡部俊也さんら。

ぼくも委員として参加致します。知財会議の座長を務めてきた10年間は、自分の意見を表明することは極力控えてきました。新ステージの開始に当たり申し上げたいことは多々あれど、当日、委員一人当たり3分しか発言時間がなかったので、それを含めここにメモしておきます。

会議の公開について

冒頭、渡部座長から、会議を原則公開にするという整理が表明されました。本委員会が発足する前に示されていた、発言者名を秘匿する「チャタムハウスルール」の適用は慎重にしてほしいと事務局にお願いをしていたので、その整理は妥当と考えます。

昨年の海賊版対策の議論は公開であったがために政策の重要性が認識されたと考えますし、実名入りの議事録は歴史的にも重要な価値を持ちます。知財戦略のプライオリティーを高めることがこの会議の一つのミッション。情報をいかに抑えるか以上に、いかに発信するかが大事でしょう。

論点I.デジタル知財戦略の推進

・GAFAがデータ駆動社会を席巻するかのように見られているが、データの蓄積、流通はまだまだなされておらず、IoTで有用なデータは爆発的に増加する。データ流通基盤(PDS、データ取引市場、情報銀行等)を構築することが知財戦略にとっても重要であり、IT政策+知財政策の一体化が課題と考えます。

・民間にデータ駆動社会への移行を促す以上に国が行うべきはオープンデータです。国のもつデータをオープン化し民間が利用できるようにする、そして全国の地方自治体も同調するよう、強力に推進すべきです。これもIT政策として扱われているが、知財戦略の筆頭に据えてよいテーマと考えます。

・データ人材育成策としては、社会人を対象とするリカレント教育コースを用意していくことが有用。ただこれを各大学の枠内で設計するのは限界があります。大学や企業の枠を超え、研究者や実務者を柔軟かつ機動的に組み合わせた学習コースを設計して提供するアプローチがあってよいと考えます。

論点II. 地域資源の活用と知財戦略

・「ポストオリパラから大阪万博2025」という知財戦略の視座設定に同意します。取り分けクールジャパン戦略として、海外発信、インバウンド対策、ツーリズム地域活性化などを強化する5年間のアクションを企画するのがよいと考えます。

・竹芝CiPはポップ・テック特区としてコンテンツやITの集積を進めています。同趣旨の拠点構想が東京以外にも、名古屋、京都、福岡などで見られますし、集積イベントが札幌、神戸、那覇などでも開かれています。これら都市を連結し、ポップ・テック列島の構想を描いてみれば面白いと考えます。

論点III. コンテンツ戦略/クールジャパン戦略

・海外展開策はクールジャパン機構の設立はじめ政策ツールが揃い、政府のアナウンス効果もあいまって、成果が上がっています。もっと評価してよい。一方、利益還元策に関わるIT・ハードとコンテンツ・ソフトの関係は、海賊版論議でも見られたように対立の構図が続いており、その融和が重要テーマです。

・クールジャパンに関しては知恵は出尽くしています。過去、提案されてきた政策を総ざらいし、評価・検証するのがよい。
例えば集積拠点モデルとして、竹芝CiP、羽田空港跡地、所沢の3ヶ所が議論されたが、いずれも民間が整備を推進し来夏に街開きの予定で、国の戦略とは関係が切れています。

また、音楽業界によるエージェント組織やアーカイブ整備の構築なども提案されたものの、業界の自主努力で進められており、これも政府の戦略とは切れています。
その点で、引き続き民間にクールジャパン戦略を期待させるためには、先般打ち出された「中核組織」は結実する必要があると考えます。

・著作権制度は、柔軟な権利制限に係る大きな改正を経て、海賊版に関する措置も執られようとしています。
当面残る重要課題は通信・放送融合への対応で、テレビ番組のネット配信問題を早急に処理すべき。これも文化庁だけでは調整が困難で、知財本部はじめ関係省庁の強力な連携が求められます。

論点IV. 知財戦略の社会実装

・シェアリングエコノミーはじめ新興の産業ジャンルでは、ソフトローや共同規制のアプローチが採用されてきており、政府も従来型の縦割り業法規制に抑制的で、好ましく見ています。

昨年の海賊版論議は、IT(通信の秘密)と知財(財産権)という憲法の要請を巡る対立であり、多くの省庁をまたぐ調整が必要でした。取り分けこの分野は縦割りの官庁では解けないテーマが今後も増加するでしょう。

このため、IT・知財を核にする省を構想する時期と考えます。経団連もデジタル省を提案しました。省庁再編からの20年での最大変化はIT・知財、AI・データの重要度と横割り度が増したことでしょう。

・この10年、政府の会議では、民間委員が議論をリードする一方、役所の発言が減少したことが気がかりです。無論、民間有識者が自由に意見をたたかわせることは大切ですが、それを基本としてその後に政府内でチューンアップする政策形成手法ばかりでよいか。

テーマによっては専門性が最も高く、情報が集まる政府が議論し、それを踏まえ民間が意見を述べる手法があってもよい。
関係省庁の責任者が政策をたたかわせ合うオープンな会議体を設定してはどうでしょう。
(霞が関の裏で行われている政策協議を表に出されてみてはどうか、というアイディア。)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。