新型コロナウィルス感染拡大を受けて、日本政府が帰国を希望する日本人にチャーターした民間機(ANA)の第1便が29日未明、中国・武漢に着陸した。本稿の掲載からまもなく午前7時半ごろには羽田空港に戻る見通しだ。
「チャーター機利用者に8万円請求」が話題
ところで、チャーター機が出発した28日夜、今回の帰国便を利用する人に8万円を請求するという報道がネットで注目され、ツイッターでも「チャーター機利用者」がトレンドに上がった。
これを受け、ネットでは「政府が在留邦人を心配して、タダで飛行機出してあげたのかと思ってた」「こんな緊急事態で政府が払わないとは」といった驚きや困惑が拡大。さらには、元参議院議員の小野次郎氏のように桜を見る会を巡る安倍政権非難に結びつけた意見も出ている。
私もこの分野に詳しいわけではないので、「邦人救出」の一環だから利用客の自己負担という第一報に違和感を覚えた。ただし、小野氏のようにあまりにも政権非難に結びつけて、政治色が強すぎる見解というのには胡散臭さを感じてしまう。
民主党政権時代も「有料」外務省の規定とは?
これまでにも日本政府は海外有事でチャーター機を出してきた前例はあるわけだから、役所がなんらかのルールに基づいて動いてきたことは想像がつく。実際、過去の記事をググってみると、民主党政権下の2011年2月、当時のエジプトで反政府デモの拡大時に、日本人観光客をイタリアまで退避させた際に政府のチャーターした便についても利用者1人あたり3万4000円の負担だったこともわかる。
エジプト邦人救出チャーター機 「利用料」徴収に賛否両論(Jcastニュース:2011年2月2日)
Jcastの当時の取材に外務省は「自己負担が原則」と述べている。さらに古い話だが、この記事でも紹介されているように、2004年のイラクで3邦人が人質となった事件では、3邦人は無事に解放・帰国するも、自己責任論に基づく激しいバッシングを受け、その中でチャーター機の料金を少額ながら払ったことで、その妥当性が議論を呼んだのが懐かしい。
そうなると外務省の「自己負担原則」を裏付けるものが何かと思ったら、外務省初の女性局長として注目された三好真理領事局長(現在は特命全権大使)が5年前に省職員の親睦団体「霞関会」のサイトに解説コラムを寄せている(参照:邦人保護と渡航の自由)。
これによると、危険地域に渡航した自国民救出費用については、外務省の内規により、当該区間のノーマルエコノミー片道料金を撤収しているようだ。厳密に言えば、感染症の危険に直面した武漢の事例と多少は異なるかもしれないが、この内規に準じた内容で運用されていれば特異というわけではない。
国内外でケース・バイ・ケース
なお、海外に目を転じると、アメリカ政府は今回の武漢へのチャーター機については乗客の自己負担のようだ(参照:朝日新聞)。また、三好氏の前述のコラムによれば、ドイツでは危険地域へのチャーターについてビジネスクラス片道料金を請求。フランスでは政府の注意を無視して危険地域に渡航して救出措置を必要とした自国民に、費用を請求すると法律で定めているという。
一方、イギリス政府は昨年9月、旅行大手のトーマス・クックが経営破綻した際、同社のツアー客15万人の帰国のためにチャーターした機については「無料」としたようだ(参照:BBCニュース)。このイギリスの事例とは裏の財源事情が日本語記事だけでは不明なため、今回の日本政府の武漢のケースとは一概に比較できないが、少なくとも旅行会社の破綻によるツアー客保護と、感染症拡大を受けた緊急帰国という事案を比較すると、前者は規模が大きいとはいえ、後者の方が人命に関わり、重大性・切迫性で上回るように思えるが、政府の有料判断を責めるのであれば、そうした事実や制度から突き詰めていくべきではないのか。
政府チャーター機の負担については日本国内、海外でもケース・バイ・ケースのようだ。2002年に北朝鮮の拉致被害者5人を日本に帰国させた際は、全額政府負担だった。このあたりは国民の理解度の得やすさも影響しているのかもしれない。
「桜」と混同した政権非難は愚の骨頂
この問題、左派野党や左派メディアは小野次郎氏のように安倍政権攻撃の材料に使うのかもしれないが、役所の現在のルールの中身を精査し、あるいは外国政府の事例なども勘案した「相場感」を元に議論・追及するのが妥当だろう。少なくとも、桜を見る会問題のような私物化事案と混同して議論するというのは、民主党政権時代も含めて外務省が一環したルールで運用してきたとみられる点からも「愚の骨頂」といえる。
そう考えると、小野氏のような警察庁のエリート官僚出身で、小泉政権で首相秘書官まで務めたような人物が、一般人が飲み屋でする政治談議レベルの論評は見ていてイタい。どんなに立派な肩書きがある御仁でも反政権ポジションにベットし切ってしまうと、万年野党ダークサイドに転落という成れの果てが待っていることを身を以て示している。