南米のウルグアイはアルゼンチンと兄弟の国といった印象を与えている。そのウルグアイで3月1日、大統領に就任することになっている国民党のルイス・ラカーリェ・ポウ(46)はアルゼンチンから10万人がウルグアイに移住するのを容易にすべく減税対策などを3月から打ち出すことを発表した。(参照:elmundo.es)
それはアルゼンチンでアルベルト・フェルナンデスが昨年12月に新大統領として就任して財政難を課税対策で解決させようとしている方針を前に、自らの富が減少するのではないかと懸念している富裕層らがウルグアイに移住してくれることを狙ったプランである。
アルゼンチンの人口の5.5%が超富裕層とされている。即ち240万人がそれに相当する。ということで、ウルグアイがこの層から5万人がウルグアイに移住してくれることを望んでいるということらしい。(参照:elobservador.com)
En 2018, Uruguay entregó menos de 11 mil residencias a extranjeros, según datos de cancillería.
¿Qué tan posible es atraer a 100 mil extranjeros en cinco años?https://t.co/k1tddvMgT3
— El Observador (@ObservadorUY) January 10, 2020
国土面積17万6千平方キロメートルのウルグアイという国は僅か300万人の人口が長く維持されたままである。経済に大きな飛躍はなく、人口の増加が長期間観察されない状態が続いている。それに対してアルゼンチンの人口は4500万人。
世界一貧しい大統領と称されたホセ・ムヒカ(2010-2015)が属している拡大戦線党の15年続いた政権に終止符が打たれ、今回国民党のルイス・ラカーリェ・ポウが拡大戦線党の候補者と接戦の末に大統領に選ばれた。ルイス・ラカーリェ・ポウの父親ルイス・アルベルト・ラカーリェも大統領(1990-1995)だった。ウルグアイの政治はもともと保守系の国民党と自由民主系のコロラド党によって政権が担われていた国だ。それに2005年から左派の拡大戦線が割り込んで15年の政権を維持した。
アルゼンチンでアルベルト・フェルナンデス大統領が課税の一貫として外国に旅行するのに購入チケットやクレジットカードのドルでの支払いに対して30%の課税が課せられるということになり、その被害を受ける国のひとつにウルグアイがある。アルゼンチンの人たちが外国への旅行を控えるようになるからである。
フェルナンデス大統領のこの対策の狙いはドルの外国への流出を防ぎ、外国旅行ではなく国内旅行を奨励するためであった。アルゼンチンではひとりあたり毎月ドルは200ドルしか購入できないが、そのドルの購入でさえも30%の課税対象になることになった。
この方針に不満を表明した国の一つがウルグアイだ。リベラル派のマクリ前大統領の政権時ではウルグアイはアルゼンチンからの移住を促進するということは控えめであった。ところが、フェルナンデス政権になって課税が経済政策の柱になって行くのを見たアルゼンチンの超富裕層や富裕層は税金逃れの一貫としてウルグアイに移住することも良い考えだと見るようになっている。実際、アルゼンチンの法律事務所や経理事務所ではこれに関係しての相談が急激に増えているそうだ。
ウルグアイで居住している場合だと、外国に持っている資産や得た収入に対して課税の対象にはならない。アルゼンチンの場合はそれも課税の対象にされる。所得税はウルグアイでは25万ドル以上の収入から税金が課せられる。アルゼンチンでは3万ドルから課税の対象になる。その収入を割り出すのにウルグアイでは資産と負債を比較対照するのに対しアルゼンチンでは住宅ローン以外の負債は対象外とされている。
更に、ウルグアイでは移住者に対して最初の5年間は所得税は12%とした。
このような課税対象の違いを考慮すれば多くのアルゼンチン人が隣国に移住することを望むようになると思われるであろうが、事態はそう簡単ではないというのが専門家の間から指摘されている。例えば、登記上で住居の住所を変更しても、会社はアルゼンチン国内にある、家族もアルゼンチンで生活しているということだと、単んに課税から逃れるために住所を変更しただけだと見なされて逆に訴えられるようになると指摘している。
3月に誕生するウルグアイの新政権が望んでいるのは、外国に資産をもっているアルゼンチン企業家がウルグアイで住んでくれることだ。そうすることによって彼らがウルグアイでも投資をする機会が増える。これまでアルゼンチン人がウルグアイに蓄えている資産は30億ドル(3200億円)だそうだ。(参照:infobae.com:clarin.com)
コンサルタント企業「エコラティーナ」の部長、ロレンソ・シガウトは、「経済面での圧力と増税とでアルゼンチン政府自らが移住をするように仕向けている。それに加えてウルグアイ政府が居住先の変更などをさらに簡素化させれば移住することをより真剣に考える人がさらに増える」と述べている。
また、国民党党首で大統領に就任するルイス・ラカーリェ・ポウも、「ウルグアイは色々と異なった意味でメルコスルの住民だけでなく、世界から人々が居住先として集まって来る可能性を持っている」と述べている。更に、低い税金を納めるだけの企業の登記を容易にすることも新政権では検討の用意があるとしている。(参照:iprofesional.com)
スペインで言えばジブラルタルがそうだ。人口3万人の都市に登記されている企業数は2万4000社から3万社あるとされている。即ち、一人の住民に対して1社が存在しているといった感じだ。
15年間左派政権が続いたウルグアイが3月から保守の国民党の政権が復帰する。アルゼンチンで保守でリベラルなマクリ政権に対してウルグアイは左派のタバレ・バスケス政権であった。それが今度はアルゼンチンでフェルナンデスの左派政権が誕生したのに対し、ウルグアイは保守のラカーリェが政権に就くことになっている。双方の今後の関係に注目せねばならない。