日本は中国の「本当の友」となれるか

困った時、支援してくれたり、助けてくれた友こそ「本当の友」という。その一方、うまくいっている時には問題ないが、何か困難なことや不祥事が生じた時になると、サッと去っていく友も少なくない。人生で「本当の友」を探し出すことは決して容易ではない。

2019年12月の日中首脳会談より(官邸サイト)

個人だけではない。国にとってもそのことは当てはまるだろう。日頃は「友邦国」、「同盟国」と称えあっていても、国益がぶつかってくると、その関係は急転直下、険悪化する。隣国・韓国との関係を思い出せばよく分かる。隣国関係、「共通の価値観」を有し、同盟国と考えてきた日韓両国があっという間に険悪な関係に陥り、朝鮮半島の軍事連携のために締結した「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」すら一方的に破棄される、といった事態を日本人は目撃したばかりだ。

ここでは日韓問題を扱うつもりはない。中国湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルスに直撃され、その対応の遅れもあって、世界から激しい批判を受けている中国共産党政権の現状について考えたいのだ。

香港の反中国抗議デモが連日続き、催涙ガスなどで強硬に対応する治安部隊への批判が世界的に高まっている。その度に、北京の中国共産党政府は「内政干渉だ」として激しく反論する一方、共産政権からの解放を願う若い香港青年たちを懐柔できずに苦慮している。

その最中“中国のチェルノブイリ”といわれる新型肺炎が発生した。今月16日公表時点で1665人が死去し、6万8500人の感染者が出ている。新型肺炎は昨年末に既に発生していたが、中国共産党政権の対応は決定的に遅れた。武漢中心医院の眼科医・李文亮氏(34)はその事態の緊急さを報告したが、「デモをまき散らす輩」として拘束され、自身も今月7日、感染で死去した。中国共産党政権は新型肺炎対策で明らかに大きな間違いを犯してしまった。

新型肺炎が中国本土から外国にも波及し、日本、フィリピン、香港のアジアだけでなく、フランスでも15日、ビュザン保健相が欧州初の死亡者が出たことを発表したばかりだ。それを受け、欧米諸国で中国旅行者の入国禁止、中国への渡航禁止処置をとる国は増えてきた。

中国共産党政権はその度に「事態は安定し、新型肺炎はまもなく治まる」といった楽観的な見通しを表明してきたが、中国排除の動きは益々加速化してきた。世界の覇権を狙う習近平国家主席の中国は“世界の孤児”となる危険性もでてきたのだ。

そこで中国側も中国渡航禁止などをする米国などに対し、厳しく反撃する一方、新型肺炎による孤立化から脱出するために外交攻勢をかけてきたわけだ。

習近平主席はトランプ米大統領と電話会見をし、事態が解決の方向に向かっていることを伝達。また、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された国際会議「ミュンヘン安全保障会議」の参加のために中国の王毅国務委員兼外相は訪独し、日本の茂木敏充外相やバチカンのポール・ギャラガー外務局長(外相)らと次々に会談している。そこで王外相は、「わが国は新型コロナウィルスを解決するだろう」と豪語する一方、米国を意識して、「新型コロナウイルスを理由にわが国を孤立化させる動き」に対して厳しく批判を繰り返している。

中国排斥の流れの中で、例外は日本だろう。中国は日本政府の対応を評価し、機会がある度にその支援に対し心から感謝していると述べてきた。日本政府が100万枚のマスクを支援したからではない。韓国の聯合ニュースなどを読んでいると、「わが国も中国を支援してきたが、なぜ日本政府だけが感謝されるのか」といったいつもの嘆き節が聞かれるほどだ。

実際、新型肺炎が発生して以来、日中関係はメディアで見る限り、改善している。4月に予定されている習近平国家主席の国賓訪日も「準備が順調に進んでいる」というニュースしか報じられない。日本の与野党内で「この時期の中国主席の訪日はよくない。延期するべきだ」という声が既に聞かれる。

神奈川県で今月13日、80歳の日本人女性が感染し、死亡したニュースが伝わると、「日本国内で初の犠牲者」と大きく報道されたが、安倍晋三首相の口からは今のところ「習近平主席の訪日延期」といった声は出ていない。

多分、日本政府側には新型肺炎が来月には沈静化するという見通しがあるのかもしれない。中国共産党政権のトップダウンの対応で新型肺炎は解決できると期待しているのかもしれない。

国同士の関係で、困った時の「本当の友」になるのは個々の人間関係の時よりハードルが高い。国家の為政者は国民の安全、国益を先ず最優先しなければならない。困っている隣国に対し、その国を批判する国々と歩調を合わせて批判しなければならないことのほうが多い。

“安倍外交”と評され、華やかな外交を展開してきた安倍首相にとっても中国の国家主席の訪日は大きなイベントだ。習近平主席の国賓訪問が安倍外交に大きな汚点を残すか、先見の明があった決定として、更に花を添えることになるか、安倍首相は今、大きな賭けに挑もうとしている。中国側はそんな安倍首相を鼓舞するために必死に日本の支援に感謝表明を繰返しているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。