独「グリム兄弟の街」で極右テロ事件

独ヘッセン州ハーナウ市内の2カ所のシーシャ・バー(Shisha Bar、水タバコ・バー)で19日午後10時頃(現地時間)、1人の男が銃を乱射し、9人が死亡、多数が負傷するという事件が起きた。

▲犯行現場を警備する警察官(2020年2月20日、ドイツ民間放送NTV中継から)

▲19日夜に起きた銃乱射事件を説明するヘッセン州ボイト内相(2020年2月20日、ヘッセン州議会で、ドイツ民間放送NTV中継から)

事件は同日午後10時、ヘッセン州の人口10万人余りの小都市ハーナウ(Hanau)のシーシャ・バーで男が銃を乱射した後、車で逃走。警察側は大捜査網を敷き、ヘリコプターを動員して容疑者が乗って逃走した車を追跡した。

現地の警察によると、特別部隊が20日早朝、市内の容疑者の自宅に突入。2人の遺体を見つけた。1人は容疑者で、もう1人は容疑者の母親(72)とみられる。ハーナウ銃乱射事件の死者は容疑者を含むと11人となった。

ヘッセン州議会でボイト内相は20日、「容疑者はドイツ人で43歳の男性で、これまで警察側にはマークされてきた人物ではなかった。押収したビデオなどを見る限り、外国人排斥、憎悪が犯行動機とみられる」と、極右的動機に基づくテロ事件との判断を強調した。ハーナウ銃乱射事件はカールスルーエの連邦検察庁が担当することから、事件が極右過激派のテロと受け取られていることが明らかだ。

独週刊誌シュピーゲル電子版によれば、容疑者は犯行声明とビデオを残していた。それらを詳細に調査すれば、容疑者の犯行動機や極右派グループとの接触などがより一層明らかなると予想される。

ハーナウ市のクラウス・カミンスキー(社会民主党=SPD)上級市長は、「ショックを受けた。わが町でこのようなことが起きるとは考えてもいなかった」と語り、同市出身のキリスト教民主同盟(CDU)のカティア・ライケルト連邦議員はツイッターで、「全ての人にとって事件は本当のホラー・シナリオだ」と書いている。

ドイツでは2015年以来、イスラム過激派テロのほか、外国人排斥、反ユダヤ主義に基づいた極右過激派テロが増加してきた。例えば、旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日正午ごろ、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。

また、ドイツ中部ヘッセン州カッセル県では昨年6月2日、ワルター・リュブケ県知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えた。同県知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。

ハーナウの銃乱射事件の舞台となったシーシャ・バーの「水タバコ」はペルシャで発明されたともいわれ、イスラム教圏で広がった喫煙具で、水煙管や水パイプとも呼ばれる。シーシャはエジプトを含む北アフリカのマグリブ諸国で主に使用される名称という。ドイツでは若者の間に人気がある。

ちなみに、犯行舞台となったハーナウ市は、「白雪姫」、「赤ずきん」などの童話でよく知られているグリム兄弟(ヤーコプ、ヴィルヘルム)が生まれた町だ。日本の旅行者にとって、ハーナウ市はブレーメンへと繋がる「メルヘン街道」の出発地としてよく知られている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。